戯言がいっぱい。

めもちょー

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Successor Of Dragon  その24

釣られた人挙手。
すまん、全くそのつもりはなかった。読み返して見たらそうだったんだ……。
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「ねえねえ、シャドウ、ちょっと一人でこっち来てちょ」

 その後の作業は、やはり今回の場合に限っては補助同伴がファルマであったこともあり、ビビやセイのいる手前、気分的に早く済ませたいということもあり通常よりも随分と早く半数まで達した。15つ目が終わった後、キリがいいだろうと小休止を取ることとなったのだが、忙しいと呟きつつもファルマが弟子たちへ出した課題を確認しに向かってすぐ後、ビビが珍しくも俺を呼び出してきた。

 ビビが一人で俺と話したがっている。そんな奇妙で通常は起こりえない状況に訝しがりながらもとりあえず応じると、ビビは駆け足で先ほど作業をしていた部屋を飛び出した。俺はますます疑問に思いながらも後を追い、先ほど魔方陣を描いた部屋のある廊下の突き当たりに明らかに挙動不審といえる態度を取りながら早く早くと俺を催促しているビビの元へ歩み寄った。


「あのねあのね」

 ビビは柄に無くも珍しく緊張しているようだった。そのピリピリとした雰囲気が俺にも伝わったのだろうか、俺も無意識に構えていた。いつもとは明らかに様子が違う。他のものならいざ知らず、このビビのことだ。予測不可能といっていい。


「俺にしか話せない、重大なことなのか? ……聞くまでも無いか」

「うん、ちょっとこれ受け取って」

 ビビはいつの間にか自分の腕程度の厚紙を丸めた筒を持っていた。俺はそれを無言のまま受け取り、開いた。これが一体何なのか、想像をせずに即座に。

 地図だった。それも、極めて精巧な、そして重要な、ヴィズモンツァナ・グラーリー城の。ビビの兄の、アルフェイリアの城の。

 書き込まれている内容が余りにも細かすぎるため、俺はざっと見渡すのにさえ多少の時間を要した。そして見渡しながらも、俺はこれを描いた者の技術に驚かされた。ここまで細部に至るまで詳しく書かれているのに、見やすい。全体を把握しやすい上に、裏道や幾重もの仕掛けが余すところ無く描かれている。

 こんなものがもし相手国の手に渡ったりでもしたら、それは同時にアルフェイリアの国の存亡にも関わることとなだろう。


「おい、ビビこれは……」

「アルフェが一年かけて描いた、おいら達の城の全てだよ」

 何のつもりだ、と言おうとした俺の声はかき消された。言わずとも悟れ、ビビがそう俺に訴えているような気がする。


「50分の1程しか生きていない奴に、そんなプレッシャーを与えられるとはな……」

「ふふふん。わざとさっ」

「いいだろう。お前等兄妹の信頼は確かに受け取った。これに関しては俺が全責任を持って預かろう、時にビビ」

「ん? 何だね」

 俺がこいつらと同盟を結んでいるのは、その気骨が気に入ったからこそ。何よりも俺にこの1000年で経験できなかった新たな道を運んでくるからこそ。

 俺はため息まじりに苦笑しながら言った。


「中々の嘘つきだな。面白そうだから来てみただと? 初めからこのつもりだったのだろうが」

「まあね。これを渡そうと思ったのはおいらの勘だよ。地図がいるなあと思ったのは一年前のアルフェの勘だよ」

「無断なのか?」

「んー……、微妙なところ」

「どっちにしても、お前もお前の愚兄も、俺を信用しすぎじゃねえのか? 俺に関係する噂なら耳にタコができる程入ってきてるだろうが」

 愚兄と言う俺の質問こそが愚問だというのは分かっている。


「シャドウは確認したいお年頃なのかな。むふふ」

「イエスと取ってもいいということか?」

「うーん、今更だなあ。そんな質問されたんじゃ、おいら何のために君に地図を渡しにやって来たのかよく分からなくなってくるよ」

「……まあ、そうだな。その通りだ」

「んじゃ、そろそろ帰るね。バリアっぽいの、ありがと!」


 俺は地図を持ったまま、とことこと歩いていくビビを無言で見送った。ビビが何か重要なことを話そうとしているのは分かっていたため、他人にその情報が漏れないように念のための処理をしておいたのもビビは気付いていたようだ。

 しかし、迷宮みたいだねえとこの拠地を見て呟いていたのにも関わらず、さっさと一人で帰ってしまって大丈夫なのだろうか。また嘘をついたのだろうか。

 俺は地図を懐にしまいこんだ。肌身離さず持つか、あるいはハノーア並みの待遇をするかは悩みどころではある。

 そしてこの地図の内容は一応大まかなところは暗記しておくに越したことはあるまい。アルフェイリアが自分の城の弱点に気付いているはずとはいえ、万が一ということもあるし、備えは万全の方が良い……俺がそうして方針を確認していると、ビビのとことこという足音が聞こえてきた。引き返してくるようだ。何か言い残したことでもあるのだろうか。


「シャドウ!」

「どうした、言い忘れたことでもあるのか?」

「迷った!」

「……そうか」

 なんともはっきりしたものだ。

 アルフェイリアは測量術に優れ、大地に耳を当てるだけで軍隊のような大勢の人々の移動方向・距離・速さのおおよそを掴むことができる等の絶妙な認識力を持ち、勿論自分の位置を見失い、道に迷うなどということなど滅多にないが、ビビは別のようだ。あるいは、室内だと迷ってしまうのかもしれない。この兄妹は星が好きで、天文学にある程度通じるところがある。といっても、実際はよくわからない。ただ星を見て方角を瞬時に知ることが出来たり、ちょっとした道具を使えば大まかな自分の位置を知ることができるということしか知らない。そういった空を見ることの出来ないこの場所はビビの認知外だということかもしれない。
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  1. 2008年03月21日 02:48 |
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Successor Of Dragon  その23

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「それにしてもシャドウ……、それ面倒くさそうだねぇ。複製してみたらどうだね」

「それでは無意味だ。全く無意味という訳ではないがな。魔方陣は描いてある内容もそうだが、描いている時にいかに魔力を込めるか……、まあ、気持ちを込めるかによって大幅に効果の程度が変わってくる」

「でもシャドウ、全然気持ちこもってないよ、いつも俺らにいってることと違う」

 さすがにセイは俺の描く魔方陣をよく知っているせいか、痛いところをついてきやがる。


「俺がこの魔方陣を何回描いてると思ってるんだ、正直言って無理だ。少なくとも、俺が直接描かないよりは描いた方がましだろうが」

「んー、シャドウなっかなかずるいね」

「俺もそう思うっ」

 確かに俺が日頃弟子どもにかける厳しい(らしいが、俺にはそうは思わないのだが)言葉を考えれば、今の俺の姿は見習ってはいけない類のものだ。

 ファルマがこれを見たら一体何を言われるか……、そんなことが頭に浮かんですぐ、俺は手を止めて無意識に後ろを振り返った。


「……描き終わったらならさっさと続きやって欲しいんだけど。あといくつあると思っているのよ、全く」

 流石に分かっているか。矛盾があるが、こればっかりはどうしようもない。その辺の事情は、あいつにもよく分かっているということか。

 こんな作業化した魔方陣なぞにいちいち感情を込めていたらそれこそ大変だ。代役がある程度いるならば役割を分散させてもっと質の高い魔方陣を描けもするが、ファルマ程度のレベルの魔法使いはただでさえ数少ない上に、それぞれが各々の仕事に従事しているため、魔力的にも余裕がないし、時間的にも暇がない。

 魔方陣を描き終え、ファルマと交代する。魔方陣の固定化。ここからの作業は、俺でなくとも十分だ。

 その間に俺はペンを握り締めながら魔力を充填した。こうすることで、魔方陣に感情を込められない代わりとまではいかないが、ある程度魔方陣の質を高めることができる。このペンは凄まじいほどの魔法媒介性を持つミスリル製で、普段はセイが管理している。このような重要な魔方陣を描く際にのみ使われる代物だが、今回のように酷使されることは稀だ。


「後26ね」

 しゃがみ込み、作業をしていたファルマは手を払いながらため息をついた。さすがに早い。いつもはこの魔方陣の固定化、魔方陣を完成し役割を果たさせ、かつ穢れ防止のために封をする作業は適当な組合員(といっても、ある程度の実力者に限定される。少なくとも、俺かファルマ等の元生徒レベルの腕前は欲しいところだ)を一人捕まえて無理やり手伝わせているが、それと比べてしまうとファルマの作業スピードは目を見張るものがある。元々そこまで固定化は難しいものではなく、魔方陣を描き終わったら必ず行わなければならない行程のせいかその一連の動作は何も考えずとも無意識に体が動いてしまう程度まで慣れてしまっているものとはいえ、ビビやセイがファルマの作業を凝視して、何か言おうとしたその初めの数秒間にその作業を完了させる手際の良さは、賞賛に値するといってよいだろう。


「ほら、次よ、次! 特別に私がついてやっているんだから、今日くらい余裕を持って終わらせるわよ」

「ファルマもやっぱりすごいねぇ」

「うん、俺、本当に見れてよかった!」

 この短い作業の中でも、セイには思うところがあったらしい。現にセイの目は先ほどの数秒間でさえファルマの手元に釘付けであったし、きっと俺が魔方陣を描いている時もそうだったのだろう。セイは俺の所為なのだろうか、本の虫といっていいほどの本好きであるが、実際の魔法の経験数は絶対的に足りない。これはほぼ仕方のないことだが、本人もそれは自覚しているらしく、俺が放つ魔法の一つ一つを全て食い入るように見つめアンテナを張り、俺の行った魔法にセイの理解の及ばない範囲が含まれていた場合は即座に質問をぶつけてくる。この飽くなき向上心こそ、上達に最も必要な要素の一つであることは今更言うまでもないだろう。

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  1. 2008年03月21日 02:46 |
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Successor Of Dragon  その22

この小説では絶対領域はあのスカートの中のことではありませんよ、むふふ。
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「うーん……」

 今までこの方法が生み出されることがなかったもう一つの原因として、基礎を張るのが非常に微妙で繊細な、尤も簡単だが極めるには難しい部類であることもあげられる。簡単な膜なら魔法を習い始めて数年来の初心者でさえ、一応それらしいものは創ることができる。だが、長持ちさせようと精度を追求する、今回のように出来れば半永続的な効果を期待しようと思うなら、そのためだけに十数年の鍛錬を必要としてしまう。それもそのはず、この膜の基となるものは本来、ある程度の腕前の魔法使いなら誰もが自然に生み出している第三の防御壁、いわゆる絶対領域というやつだからだ。

 魔法使いは、いや、魔法などとは全く縁のない一般人でさえ、自らを守るための壁を常に、或いは自らの危機を感じ取った時に……生み出している。それらを分類すると三種類となり、この全てを常時維持している者とそうでない者が、一流の魔法使いとその他の者とを隔てる一種の境目となっている。一番外側の壁は、最大で自分の視界が及ぶ範囲から、最小で手の届く範囲と大幅な個人差がある。壁、ということで勘違いされることが多いのだが、何か触れられるような物理的な壁がある訳ではない。魔法など身についていない者でも、敵意あるものが接近してきた場合、殺気としてそれを感じ取れることがある。まさしくその相手を認知できるか否かの境目が第一の壁であり、意識の壁と呼ばれる奴だ。魔法使いであろうとなかろうと、誰しもが多かれ少なかれ魔力をそれぞれに持っており、それを感知することによって相手を認識する。磨いていけば、視界にやっと入るようなはるか遠くの敵の強さ(正確には潜在する魔力の量)、これはなんとなくだが……性格を感じ取ることが出来る。第二の壁は、基本的に誰でも持っている。範囲も最大と最小のそれを比べても、第一の壁程の個人差はない。俗に言う雰囲気、オーラの類である。またこの壁が及ぶ範囲が同時に魔法の発動可能範囲でもあり、自分のテリトリー、最小で自分の皮膚から数ミリ、最大で十数メートル(意識して高めようとすれば数十メートルまで伸ばすことができるが、まずそんなことを実戦で実行する機会はないだろう)。この壁の精度が高ければ高いほど、その範囲に入った相手へより強い威圧感を与えることができる。そして第三の壁が先ほどもいった絶対領域。これは厚みや強度に大幅な個人差があれど、範囲に差は無い。というのも、この壁は常に身の回りを覆っているからだ。これは他の壁よりも実質的で物理的な壁で、本当に自らの身を守っている、皮膚と同じ存在といえるものだ。魔法使いが自らの放った魔法で傷つくことが無いのは、全てこの壁があるからこそ。この壁は他とは違い、意識的に常に強度を変更される。熟練者は一定のこの第三の壁をくつろいでいる時だろうが寝る時だろうが常に構築している。生命線だからだ。

 これらの壁は、意識して高めることも、故意に消すこともできる。勿論常時維持しているのが一番理想なのだが、それは同時に常に魔力を放出していることを意味する。魔法使いでない者に置き換えれば、常時ランニングをしているようなものだ。そのような状態を、休息や寝ている時でさえ維持できる者はそうはいない。だが、その価値はある。だからこそ、これこそが魔法使いの初歩であり、同時に一流の魔法使いであるものとそうでないものを分ける壁となっている。

 俺がこの壁について考察することとなったのはそれほど最近の事ではないが、そう遠い昔のことでもない。というのも、この壁を維持するようになってしまったらあとはほぼ無意識的に継続するだけだからだ。そして長らくの間それが俺を含めた魔法使いたちの盲点だった。意識してこの壁をコントロールできるのなら、他の使い道……自分ではなく他人に、あるいは物にこれをかけることができるのではないかということに目が向かなかった(魔法使いというのはえてして多元的に物を見るのが苦手らしい。俺もそうだろうと自覚している。この場合、多元的とは言えないかもしれないが)。勿論、目に見えるまでに強化された防御壁を魔法の一種として出すことはできるが、この絶対領域は、それとはまた別だ。俺は独自に研究を重ね、その壁を他のものに敷くことを体系化したのだが、今ではその用途はほぼ大掛かりな魔方陣の下地となっている。しかし、面白いものだ。勿論これを体系化したのは俺だが、そういった用途を生み出したのは俺ではない、組合員含め様々な魔法使い達の研究によるものだ。俺はそもそも魔方陣といえば頑丈な石版、もしくは使い捨てならば紙としか考えられなかった。だが今にして思えば、それは固定観念であり、極めて不便なものだったといえよう。紙などは薄く重ねておけるが、魔法の衝撃に耐えられず髪ごと魔方陣が消滅してしまうので紙を使用するときは余程負荷が無い限り使い捨て覚悟のものだった(そもそも負荷が無い魔方陣など魔方陣としての意味すら持たないから、ほぼ100%使い捨てになってしまう)し、頑丈な石版などは長持ちするかもしれんが嵩張る(とはいえ、本当に大規模で大きな魔方陣ならば、そんな大きな膜は張れないため、今でも石版を使うことはある)。だからこの利用は、幅を取らずに長持ちする、紙と石版の二つの利点を併せ持った素晴らしい用途だといえる。やはり、魔法の研究などは独りでするべきではないと、俺はまた確信することとなった。


「早いねぇ」

 セイが気を利かせて持ってきた(俺は持ってきていない)専用のペン(この膜にはそれ専用の筆記用具が必要で、これも魔法用具)で無意識にいつも何十と描いているお決まりの魔方陣を書き込んでいる俺を見て、ビビが呟いた。


「うん、あの土台を張るスピード……すごいよね」

「むむむ……?」

 噛み合わない二人の会話が、何となく耳に入ってくるが、作業効率が下がることはない。腕が勝手に動いているといってもいい領域にまでこの退屈な作業は身にしみてしまっているからだ。

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  1. 2008年03月21日 02:45 |
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Successor Of Dragon  その21

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「この部屋は?」

「魔方陣の雛形のストック所だ」

「これは?」

「夜になると発効するスタンドだ」

「あの飛んでいるのは?」

「見張りだな。そこらへんの使えない奴らどもよりも知能の高い鳥、イグリスという」

「迷子になんないの?」

「俺からすればな、お前のところの城の方が余程迷宮だ」

「うん、あれも迷うよね」

「アルフェイリアだけが唯一完全に把握しているようだな」

「測量とか得意だもんね」
「それはそこまで関係ないと思うが……アイツが建てた城じゃねえしな」

「でも一応改造はしてるんだよ」

「そりゃあ千年も昔のものをそのまま流用するわけにはいかねえだろう、ここのようにな」

「そんなにボロボロ?」

「建物的な意味ではそうでもないが、魔法的な意味ではな……」

 食堂から目的の場所への道のりはそう遠くはなかったはずなのだが、その間にもビビは辺りを物珍しそうにきょろきょろと見回しては俺を質問攻めにする。だが、一度質問した内容を深く掘り下げてくることはない。俺の簡潔な答えで納得できるわけもないにも拘らずだ。奴なりに頭の中で自己解決しているのだろう。面白いことに、いくつかの質問ではセイの方がより熱心に耳を傾けてきた。質問を深く掘り下げてくるのは奴の方だった。


「ねえシャドウ、この部屋もやる意味あるの?」

 たどり着いた部屋は、宿舎の一つ。だがかつてのこの部屋の住人は今や一人前の魔法使いとして社会貢献とやらをしているだろうから、今は蛻の殻となっている。多少埃のかぶった部屋の空気が敏感なセイには耐え難いらしく、俺に質問したその声音には明らかに不満が篭っていた。


「大有りだ。そうか、お前には実際に内容を見せたわけではなかったな。どんな部屋もいざとなった時には役立てるものだ。それ以上に、一つでも疎かにしたら、そのままそこが侵入経路となる可能性がある。俺がこれからかける魔法は、勿論個別用のも含まれているが、基本は全体で一つの役割をするものだ」

 この簡素な小部屋には、その部屋に似つかわしい小窓が備わっている。俺は身をかがめ、その小窓のちょうど下辺が適切な場所だと見定めた。まずは一番基本の土台。その壁をなぞるように手を当てながら、ゆっくりと薄い膜のようなもの(なんと表現すればいいのか分からん)を張っていく。ここがおざなりになってしまうと、後の行程が全て無意味となってしまうから、いくら手馴れていようとここの作業を急いてはならない。

 それが完了したら、今度はその上に魔方陣を描いていく。先ほど行った作業に怠りが無ければ、それがそのままこの魔法の耐久力となるだろう。大掛かりで、できるだけ長持ちさせたい、あわよくば永続的に作動させたい魔法の魔方陣を描く時は、その下に土台を敷いた方が良いと、俺の過去の研究成果が物語っている。

 今まで魔方陣は紙、重要な物は石版に描くものだという固定観念があり、俺のように壁にいきなり書き出すということは無かったため、この土台を築く発想が生み出されることは今までになかった。とはいっても、こんなことは別に革新的でも画期的でもなく地味としか言いようも無いもので、俺が生み出さずともいずれ何者かが着想していたであろうものだ。

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  1. 2008年03月21日 02:44 |
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Successor Of Dragon  その20

シャドウ1「ファルマとフラグ立てんな」
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「お前に知られること自体は別に問題はない。あちら側に知られなければ本当はどうでもいい」

「でもシャドウ!」

 少し落ち着いてきたのか、ファルマが話の腰を折ってきた。


「ビビが他言をしなければいい話だ。特に問題はない」

「でも、ビビ姉ちゃんに分かるってことは、もしかしたら他の人にもばれちゃうかも知れないんでしょ? それって……」

 確かにその通りだ。いかにビビの勘が優れているといえど、特別な魔法を使えるといえど、所詮本職ではない。ビビ以上に鋭い嗅覚を持った者など腐る程いるだろう。組合構成員を除いた者の中でビビのこの拠地に触れる機会の多さを考えれば、少しは安心できるか。

 だが、いくら機会の差があるといえど、危険であることに変わりはない。魔法組合本部ということ以上の意味があるこの拠地が非常に脆いと知られることがいかに危険なことであるか。なにしろここは、同盟を結んでいるアルフェイリアの国ル・ルヴァオールの中心地、別名『不落の要塞』ヴィズモンツァナ・グラーリー城が万が一陥落した時に使われる、第二の拠点だ。これは、不測の事態に備えて、俺とアルフェイリアが同盟を組んだ際に決めたことだ。敵に知られることは論外、ルヴァオールの国でも一部の者しかその同盟の内容を知らないとはいえ、その者たちに同盟相手であり第二の拠点がこれほど無用心だと知られたら、それこそ一大事だ。

 ビビはおそらく同盟内容までは知らずに好奇心で言ったのだろう。(作品というのは、奴の趣味の一つである木彫りのことだ。この際自分の腕を世に認めてもらおうとでも思っていたのだろう。俺は残念ながら芸術というものに関しては全くの無関心で疎く、ビビの腕の良し悪しすら分からないが)その危険性まで気づいているのかどうかは分からないが、こいつには何か憑いているのだろうか。兄妹そろって肝心な部分だけ妙に鋭い奴らだ。

 一応、俺とファルマ、そして一部の幻影魔法使いによって、この拠地の脆さはカモフラージュされている。しかし、何しろこの規模だ。俺もそこまで魔力を修復ならともかく、誤魔化すことに裂けはしない。ある程度の実力を持った魔法使いなら暴こうと思えば暴けるし、見破ろうと思えば見破れるだろう。そうしようと思えば、の話だが……。ビビが第一発見者たる所以は、誰も魔法組合の拠点ともあろうものがそんな事態を起こしているなどと思わなかったということだ。つまり、どうせ探りを入れてもどうせ魔法使いの根城だ、無駄であろうと誰も実践しなかった。ビビは探りを入れようとしてではなく、興味本位で、好奇心でしかも内部からの観察だ。ビビの勘を思えば、見破られても仕方がないのかもしれない。


「安心しろ。今頃見破ったところでここなぞ眼中にすらないだろう。奴らの視線はあいつの城に釘付けだ。そもそも、こんなところを見破る暇があったらその分の観察力を城に回しているはずだ。ところでビビ、つまらん作業だとは思うが、手伝いたいということならば、俺にそれを拒む理由は無い」

「やった! むふふ、ついにまどーしのお城の壁をこの帽子で埋める時が来たね」

「ちょっと、シャドウ! あんた……態とやってるわね」

「残念だったな、ファルマ。これはこんな回りくどい手をしてんじゃねえという、神(俺たちの言うところの神は、魔法の創始者のことだ。この俺のシャドウという名も、そのとてつもなくお偉いらしい神様とやらの名前に準えてつけられたものだ)の啓示かもしれないな」

 サイテー、あんたってサイテー! ……ファルマの罵声なら、聞かずとも推測できる。


「どうせならお前も来ればいいだろうが。ビビとティータイムやらをする余裕があるのなら、少しは副組合長として組合に貢献しやがれ」

「ちょっと、私は私のやるべきことを終えてやーっと手に入れた束の間の休息を大事にしようとしているのよ! 自分の仕事より酒を優先した飲んだくれと一緒にしないで欲しいわっ。……でも、どーしてもと言うなら手伝ってあげてもいいわよ?」

「ビビのためにか」

「ち、ちが……く無いわ。そーよ。それで何か問題ある?」

「……」


「ビビねえちゃん、まずはこっちだよ」

「おお、こっから先も迷宮みたいだねぇ」

 こうしたファルマとの掛け合いはいつものことだが、ビビにはさぞ滑稽に見えたことだろう。うすうす感づいてはいたが、改めて自分達の行動を思い返してみると、これがまたなかなか恥ずかしいものだ。俺からリストをそっと持ち去ってビビを案内するセイには感謝せねばなるまい。尤も、意図的ではなく、早く仕事を終わらせなければという意識で行動しているのだろうが。

 俺はそこから黙ってセイの後を追った。ファルマも隠し切れず、若干顔を赤くしながらその俺の後に黙ってついてくる。いろいろ言いたいことはあるが、とりあえず、後悔先に立たずだ。

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  1. 2008年03月21日 02:42 |
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Successor Of Dragon  その19

ビビシャドに見える?全然見えねえよへっへーんだ。
これがおいらの恋愛要素の限界ですどうもありがとうでした。
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「だが、それとこれとは別だ。生憎だが俺は自分の仕事を邪魔されるのが何より嫌いなんでね。ここでファルマと茶でも飲んでやがれ」

 こうすればファルマのこの上なく喜ぶだろう。俺の思惑通り、ファルマは軽く俺の背中を数回叩いて前に出た。


「そうですよビビさん。こんな奴よりも午後のティータイムといきましょうよ」

「むむう、頼むよ、シャドウ」

 ビビはそういいながら俺の袖をぐいぐいと引っ張ってきた。俺はふりほどこうと軽く腕を振ったが、俺程度の腕力では奴の握力から逃れることはできない。


「そんな声で頼んでも無駄だと……、お前は俺の性格をよく知っていたはずだがな」

「むー。むむ……」

 ビビは少し悩むふりをしたと思わせると、俺の昼飯を食べ終え、俺のコーヒーを飲んで一呼吸をした。

 セイが疑問の眼差しを投げかけてきたが、今に始まったことではない。むしろ食べている間は比較的大人しくなるぶんまだましといえる。


「分かったよ。飴もっとある?」

「腐るほどある、好きなだけ取っていけ」

 俺はメルの方をちらと見、合図を送った。こういう時のために、密かに用意してあった飴の袋が漸く役立つ時が来た。

 何にしても、これで一安心だ。

 いざとなると弱いファルマのことだ、緊張しているのだろう、何も言い出せずビビの近くの席に座ったまま(大方アルフェイリアに関する質問だろうが)言葉を捜しているその様を見ながら、ビビは顎をテーブルに付け、もう何も入っていない頬を膨らませてため息を吐いた。


「うー。おいらの作品をブレイクさせる折角のチャンスが……」

「作品?」

 ほぼ反射的に、俺は奴の言葉を繰り返した。

 直後に後悔の念が俺を襲う。今回ばかりは、我ながら余りにも軽率な行為だったと思う。


「痛んできたからリニューアルするんでしょ、ここ? 面白そうだから手伝いたくて本当は来たのさ」

「あ……」

 動揺を隠し切れずに発せられたセイの間抜けな声が、ファルマを一気に現実に引き戻した。


「え? あ、しゃ、シャドウ!」

 取り乱したファルマが慌てて挙動不審な動作を取った。その様子ときたら実に滑稽だが、人事ではない。

 その動作を客観的に見たこともあって、隠してはいたが確実に俺の中にもあった動揺が失せ、冷静に返答することができた。


「そうだな。ひょっとしたらお前には気づかれるかもしれんとは思っていた」

「隠してたの?」

 眉を吊り下げながら、ビビはメルから飴袋を受け取った。


「一応、そのつもりだった」

「ごめんよう」

 申し訳なさそうに俯きながら、ビビは受け取ったばかりの飴袋を俺に返却してきた。

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  1. 2008年03月21日 02:41 |
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Successor Of Dragon  その18 ※前回の続きはここから

やっと新しい部分だ。そしてヒロインみたいなのが登場。
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「なあああんという美味しそうな臭いがおいらを呼んでいる、とにかく呼んでいる」

 突然の声に、鬱陶しかった雑念もなんのその、どこかへと吹き飛んでしまった。聞き慣らされてはいない、だがしかし確実に聞き覚えのある声だ。俺は行儀が悪いとは承知しつつも口にものを含んだまま、ほとんど条件反射でその声のする方向へ視線を向けた。


「やあやあ、どうもどうも、やっほい」

 皆の驚きを隠せない表情に、なんだようその表情は、照れるぜと言わんばかりの表情を返しつつ、問題の人物は俺の向かい側の席へすとんと腰掛けた。


「ビ……」

「ビビ姉ちゃん!」

「やあ! お久しぶりーの。最近はもうほんっと忙しくてさあ」

 お前の成人式のせいだ、お前のせいだという言葉はひっこめておく。ビビ本人が望んでいる訳ではない。あえて言えば仕来りのせいであり、一番気合の入っているアルフェイリアのせいだからだ。


「いろいろ言いたいことはあるが、何でここに来た……ここに来れた」

「頑張ったからに決まってるじゃないか、何を言うんだね君。全くシャドウはかわいいなあ」

 分かりやすくこちらを小馬鹿にしながら、ビビは俺の食いかけの飯を自分の手元へ運び、顔色一つ変えずに黙々と食べ始めた。

 言っておくが、俺はビビ以外の誰かに「かわいい」などとは言われたことはない。こいつが俺の今まで生きてきた1000年の中で始めてだ。俺の知らないところで言っている可能性もあるかも知れないので保険をかけておくが、少なくとも、俺に面と向かって言ってきた奴は初めてだ。


「ビビ姉ちゃん、具体的にはどう頑張ったの?」

「うん、いい所を聞いたねセイ君、そうなんだよ、特にアルフェを頑張ったんだ」

 なるほど、さぞかしアルフェは必死にビビを止めにかかったろう、その場面を想像するのは余りにも簡単すぎた。

 しかし、ビビが来たと言うのに一番喧しいはずのファルマが物静かだ。俺は不審に思いちらとファルマの方を見たが、何のことはない、心配する必要はかけらもなかった。

「ビビさん、お久しぶりです!」

「ファルマ、こにちは! 君いっつもすごい元気だねえ、うんうん、いいことだよ」

 ファルマのあり得ない予定では、ビビは将来の義理の妹なのだろう。ビビの成人式で発表する婚約者の存在を知らないとはいえ、ご苦労様といったところか。ビビは真意を理解しているのかしていないのか、よしよしとファルマ諭した。


「それでシャドウとかはこれからどうするの?」

「その質問をお前にするつもりでいたのだがな」

「ん、おいら? おいらは遊びに来たのさ」

「ならば暇そうな生徒どもがうじゃうじゃいやがるんだ、そいつらのどれかでもさっさと捕まえてからかいに行ってきたらどうだ」

 そう言いながら俺は食堂にずっと居残り続けている軍団の一つを親指で指し示した。


「違うよ、何言ってんのさー。気分転換にシャドウとかを見に来たんだから早く何かやってよ」

 もういいからどこかへ行ってくれという、俺の意向はことごとく無視された。

 俺はファルマと顔を見合わせた。この拠地の修復については部外者には他言無用、それどころかある程度魔法使いとして完成されている者たちだけが知ることであり、こうして食堂にふらつく不真面目な学生たちも知らないことだ。これから修復しに保護魔法をかけにいきます、なんて言えやしない。


「ビビ姉ちゃん、シャドウのお仕事見てもつまらないと思うよ」

「そうだ、その通りだ。お前あのシスコンを放っといて兄不幸だとは思わないのか」

 俺は情けなくもセイの助け舟に縋りついた。


「アルフェはちょっとぐらい放置しておいた方がいいと思うよ。あんまりやると大変になっちゃうから途中で帰るけど、あのパニックな状態は見てて楽しいよね」

「お前は……いつから危険人物になりやがった」

 ファルマの顔が一瞬青ざめた気がしたが、これに関してはすこしばかり同意してしまう。

 アルフェイリアのビビに対する愛情が何故これほどまでに深いのか、大体の察しはつくが、過ぎたるは毒ともいうべきか。もうこいつも成人式を迎えるのだ、多少のビビ離れは必要というもの。

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  1. 2008年03月21日 02:37 |
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Successor Of Dragon  その17

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「分かってる。俺は今日何箇所回ればいいんだ」

「27ね」

「お前等は揃って俺を殺すつもりか、一箇所30分以内ってところか」

「そうね、それなら間に合うんじゃない?」

「他人事のように言いやがるな、お前は」

「だって他人だもの。組合長と副長。アンタにそれ以上の感情なんてないの。アンタがもう少し頼りになる漢だったら考え直したかもしれないけどねー、で、はいこれリストね、今あんたのご飯持ってきてあげるから食べてる間にせいぜい頭に叩き込んどいてよ」

 俺はリストを眺める気にはなれず、代わりに奴のトコトコとメルの下へ向かう足取りをぼうっと眺めた。ああ、やはりもういちいちこいつに憤りを覚えることなどなくなっている。こいつには突っ込むだけ無駄というものだ。だが、副組合長だ。あまり認めたくはないが、こいつは間違いなくこの組合の女性の中では最強の魔法使いだろう。ビビという特殊な存在を考えなければ。ビビはアルフェイリアと一緒に魔方陣の元の言語である古代文字を研究している身であり、かつ幼少時の特殊な環境からアルフェイリアにはない特殊な魔法……と言ってしまって差し支えのない力を持っている。だが、やはり正統な(?)魔法使いで言えば間違いなくファルマがその頂点にいることになるだろう。俺の二番弟子。セイとは違い、喧しい奴ではあるが俺が独自に編み出した魔法を唯一『それっぽく』使える奴だ。時期がきたらセイにも教えるつもりでいるが、その魔法を少しでも理解できそうな奴は俺の組合には今のところこのファルマしかいない。男でいえば、それ程の域に達した奴は何人かいたが、俺と魔法の興味の方向性が違うらしく、俺はあえて伝授するのを控えた。教えても時間を食らうだけのもので意味のないものとなってしまいかねない。魔法にも様々な種類があるのだ、己の専門とする分野と違うものはある程度の位置で留めておくべきであろう。俺の生み出した魔法をある一定の域に達した俺の弟子の魔法使いの中で使えそうな奴が、ファルマのみだったというわけだ。何しろ奴らにとって時間とは有限なのだ。ここまでディープな魔法を己の得意とする分野ではないところまで学ぶのは、俺の仲間……不老不死である者の一員となった時でいい。少し方向性は違うが、それこそセイのような奴だ。

 それにしてもファルマという奴も俺には理解できない一面を持っている。何せ、魔法の習い始めの動機が「偉い人になれるから」で、今の理由は「モテるから」だ。前者は親からすりこまれたイメージだから本人のせいではないが……。しかしよくもまあそんな不順な動機でここまでこれたものだ。野望や夢とは違い、女のそういった思いもまた一つの大きなエネルギーなのだろうか。とはいっても、ファルマは何だかんだで魔法の研究は雑念無しに没頭できるのだ、純粋に魔法使いとして魔法への興味も十分にあるのだろう。それをふまえて考えると奴の「だってオトコにモテるじゃない」は自分がれっきとした魔法好きであることのカモフラージュである、ともいえる。むしろ魔法好きであることこそ魔法使いに必要な要素で、誇るべきであるのに逆のほうを強調したい気持ちは、俺には全く分からない。


「ファルマ、シャドウに似てきたね」

「何だと! セイ、お前正気だろうな」

「うん、だって、そっくりになってきてるよ、俺は嬉しいけどなあ。シャドウは嫌なの?」

 嫌もなにも、俺の最近の衝撃ランキングを作るとしたら、間違いなく頂点を争う程のショックだ。先程奴がアルフェイリアのことで落ち込んでいたことに劣らないはずだ。

 俺は決してそのことを顔には出さなかったが、セイの敏感さときたら、掻い潜ることは難しい。

「うーん。弟子は師匠に似るもんだからさ、ほら!」

「そうだとしたら、そうだとしても、お前はそうなるんじゃねえぞ」

「えー。オレ、ファルマが羨ましかったんだよ」

 貶されると反発のしようもあるが、こうこられてしまうと、少し自分を見つめなおす必要があるんじゃないかという気にさせられてしまう。これからは少しは気をつけよう。第二のファルマは絶対に出したくない。そういえば、俺が前の組合長に似ているとアルフェイリアに言われたこともあるが、それにも相当ショックを受けたものだ。この衝撃も、今のセイの発言と並んで俺の衝撃ランキングにトップに食い込んでいる。

 俺が打ちひしがれていると、師が柄にもなくどうしたのさ、メルがこれでも食べて元気をお出しと定番の飯を運んできた。同時にファルマが俺にリストを眺めることを強要してきたが、俺はとことん無視した。畜生、こいつの一体全体どこが俺に似ているというんだ。信じられない。

 俺は隣で元気な声で礼を言うセイもお構いなしに、黙って出されたものを食べ始めた。いつもの料理がいつもより甘く感じる。食べれば気分が落ち着くかと思ったが……。このまま27箇所に保護魔法をかけるのに、これしきのことで(俺には重大だが)動揺してどうするというのか。振り払うべき雑念を振り払おうとすればするほど、よりくっついて回る。もどかしいったらありゃしない。

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  1. 2008年03月21日 02:34 |
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Successor Of Dragon  その16

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「うそ! ホントに? ……で、なんなの? アンタが選ぶプレゼント、興味があるんだけど」

「ハノーアだ。しかも特大のな」

 具体的に言うとこの程度、と俺は手で俺の顔の体積の8倍は程の立方体を作って見せた。


「信じらんない!! そんな巨大なハノーア……。でもいいわねそれ、悔しいけど、いいわ。最高よ。それをもらったら誰でも文句は言えないもの」

「そりゃあな。お前が文句を言うわけないとは思っていた。なんつっても、お前を参考にさせてもらったからな」
 ハノーアは宝石の一種である。しかも至高の。そして俺が示した大きさのハノーアともなると、それだけで小さな国が帰るほどの値段となってしまう。ハノーアは深い青の透明性はそこまで高くない宝石で、見た目の価値はサファイアとそう大差ないが、この宝石の価値はなんといっても魔力の媒介性にあるのだ。

 普通の宝石は魔法という点においては全く価値のない、ただの女性や一部の人の嗜好品だが、ハノーアは違う。普通魔法使いにとって価値のある固体は魔力媒介性の高い金属である。熱しやすく冷めやすい金属は、その特徴の通り魔法の影響を受けやすく、非常に使い勝手がいい。魔法は普通手を媒介として放たれる。その手の延長戦として使われる杖の素材に金属は好んで使われるのだが、それ以上にハノーアは魔力の影響を受けやすく、手と魔法にワンクッション置きたい際には最高だ。その上軽く、見た目も申し分なく綺麗だ。俺の杖も(普段はそこまで使用しないが)肝心の部分はそこそこの大きさのハノーアが使用されている。魔法使いが好んで使う、価値のある宝石と認定されたものであるということ自体に価値があるせいか、数多くの女性からの支持も高くなり、結果、ハノーアは滅多に手に入ることのない最も貴重な石とされてしまった。その巨大なハノーアも、何百年前か俺が降したある程度名のあった魔法使いから手に入れたもので、実際に俺が手に入れたわけではない。その魔法使いはまるで自分の命の代わりとでもいうようにそのハノーアを大切にしていた。俺がそれを手に入れたのは、そのハノーアが奴が俺の持つ不老不死の秘密を欲しがって提示された条件だったからだ。互いにそれを掛け合い、魔法使いとしてどちらが上か勝負をし、勝ったほうがその戦利品を得るという条件の下で。まあ、俺がそれを手に入れたということは勿論その勝負に勝ったということになるのだが。人間ならば誰もが一度は夢見る不老不死、それと交換条件として釣り合うと奴は判断したのだろう、とにかくあの特大ハノーアは、それぐらいの価値があるものだ。そういえば、見目でいえば一歩劣るがミスリルもハノーアと同じレベルの魔法媒介性を持つ。遥か昔にある偉大な魔法使いが発見し、その神秘性と有用性から御伽噺に出てくる幻の鉱石の名前をつけたものだ。御伽噺の『ミスリル』も、現存するミスリルも、それぞれの世界で同じく価値はこの上なく高いものとされている。

 その特大ハノーアだが、俺はこれまでそれにとびきりの保護魔法をかけて大切に保管していた。保護魔法は前の持ち主であり俺に敗れた魔法使いを見習ったものだ(奴は保護魔法に関しては俺が感心する程長けていた。余程あのハノーアが大切だったのだろう)。その保管状態からビビに祝品として渡すために取り出す行為。それでさえ気の使う面倒な作業であるのだが、俺はその作業をセイに任せてしまったのだ。だからこそのセイの不満だが、それは普段何かと目にかけてやっている礼ということで一つ頼む。

 実際俺は俺の杖の分のハノーアは確保しているし、ビビにあげるべきものが何も見つからなかったので、アルフェイリアの腐れ縁を考えての大サービスをしてやることにしたのだが、これを気にル・ルヴァオールの奴らに過剰な期待をされてしまうかもしれない。それは困る。

 それにしても、ファルマが宝石好きということと、女は総じて宝石が好きだという奴の台詞を参考にしてそれを選んでみたのだが、肝心のビビが本当にファルマが期待するほど喜ぶかどうかは微妙だ。何しろビビだ。奴は高級な花より上等の鋼を好む、一人の武を極めんとする者だ。血は争わないというやつだろうか、それともアルフェイリアを幼い頃から見ているからだろうか、奴の使う剣の腕も俺にとってはこれから成人式を迎えるとは信じがたいものになっている。兄妹そろって異常だ。まあ組合長の献品としては体裁は保たれることは間違いないのでいいか。

「それどういう意味よ。まあいいわ。それがハノーアに繋がってくれたんなら別に言うことなしね。それでこんどはあっちの件なんだけど」

 あっち、とは本拠地の修復作業のことだ。保護魔法の全体的なかけなおし。後からの修飾はどうにでもなるが、基盤となる保護魔法だけはどうしてもできるだけ高いレベルの魔法使いが行う必要がある。基盤が脆ければ、またこのように崩れてしまい、同じ苦労を繰り返すことになるからだ。それにしても、前の組合長自身がその作業を行っていれば、50年度どころかもう1000年は持つものを。まあ、あいつがそんな面倒な作業をするわけはないと重々承知しているが。こんなことならば今よりも暇であったはずの50年前の俺がやればよかったぜ。

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  1. 2008年03月21日 02:33 |
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Successor Of Dragon  その15

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「そりゃアルフェと比べたらそうかもしれんが」

「そうだよファルマ、シャドウだって結構かっこいいし強いよ。でも、アルフェイリアさんがすごいってのはよく聞く話だから、ちょっと興味あるな。そんなにすごいの?」

 すごいも何も、人間じゃないぞあいつは……と、俺はそう答えようとしてやめた。あいつは俺とは違ってれっきとした人間だ。人間離れしているその腕力も脚力も剣術も、自分の肉体を極限に鍛えて身に着けたもの。俺が奴の父アルフレッドを見た時にも感動したが……武道において、限りある時間でここまで完成された人間を今まで見たことはなかった。俺も鍛えているはずで、そこらの適当な武道家などに後れを取っているつもりはないはずだが、やはりアルフェイリアと武道を比べてしまうと見劣りしてしまうのは仕方がないだろう。

 だが、そうでなくてはならない。王として頂点に立ち、軍を率いては無敗の鬼神アルフェイリアとしての像を崩さないためには、その化け物じみた強さは必要なものだ。奴の父アルフレッドは、1000年前の栄光が費え、今にも滅びそうなル・ルヴァオールを建て直し、他の強国を立ち回りながらかつ見劣りしないまでに育て上げた。自分の国が潰されないために慎重であったアルフレッドに比べ、アルフェイリアはその遺志を継ぎつつも激しく、群雄割拠していた当時の強国の一つに過ぎなかったル・ルヴァオールを現在に至るまでにした。奴が即位した後は最早大国同士、ぶつかり合うことは避けられない。奴は軍を鍛え国を養いつつも、武術を学び帝王学を学び、さらに書をよみふけりながらも実践に、特に父親に現実を学んだ。それが奴を無敗神話を創り上げるような鬼神へと育て上げたのだろう、実際に奴が王となって以後、負けることがなかった。何が起こるのか分からないはずの戦で、兵法書以上の指揮をして見せた。敗戦から学ぶことはアルフレッドが即位していた頃に、一軍の隊長として既に知っていたのだ。奴はその頃から、もし自分がアルフレッドならばという視点で戦火を見ていたのだろう。ビビもそうだが、人間をやめかけた位置に立っている俺からしてみても、奴らはどこかこちらを恐ろしいと思わせるような要素を持っている。雑念がないと言えばいいのだろうか。魔法使いの俺にはこれは説明できない。


「奴は俺たち魔法使いがどんなに望んでも持てないものを持っているからな。まあすごい、とは言えるだろうな」

「あら、アンタ分かってるじゃない。そこがいいのよ」

「だがな、ファルマ。それは俺らだからこそ羨ましく見えるかもしれんが、実際関わっていいもんじゃねえ。俺は非魔法使いに散々魔法使いに関わるなと言う様に注意してるが、それはこちらも同じことだ。魔を極めるのと武を極めるのはある意味同じだ。奴らに関わるな」

「何よ、アンタは思い切り関わりまくりじゃないの」

「そうだな、お前も1000歳になったら関わればいいんじゃねえか」

「ず、ずるい。ずるすぎるわ、そんなのってないわ」

 そうすりゃお前にも分かるだろう、俺はそんな意地の悪いと自分でも自覚している台詞を吐いた。セイは俺は人間じゃないからいいよねシャドウ、と俺が常に言っている言葉をそのまま鵜呑みにして横から自信満々にそう言い放ってきた。

 ファルマは相当ショックを受けてしまったのだろうか、俺を呼び出したはずの張本人であるにも関わらず塞ぎ込んで用件を言い出さずにすっかり落ち込んでしまった。昨日もアルフェに似たようなことをされたし、これが俺の日頃の行いの成果だとしたら何か罰当たりなことでもしたのだろうか。心当たりがありすぎて特定できんが。もしかしたらその全てを総合した結果かもしれん。


「ファルマー、シャドウにいろいろ文句とか、言うんでしょ。オレ呼び損になっちゃうよ」

 セイの場の気遣いの上手さは、本当に見習うべきだ。特にファルマ。お前だよお前。俺はそうした視線を一生懸命に送ったつもりだが、当の本人に届くはずもない。


「……でも、シャドウの言うことなんて信じるに値しないんだから、そうよね、そうだわ。第一やっといてって言ったプレゼントだってどうせ用意してないんでしょ」

「聞きもしねえのに何を人聞きの悪いことをほざきやがる。それはやったぞ」

 セイを使ってな、とはファルマの小言防止のために付け加えることができなかった。セイのこちらを見る視線が少し痛かったので、後でセイには褒美をやるとしよう。

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  1. 2008年03月21日 02:31 |
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Successor Of Dragon  その14

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「先生さすが!」

「先生、かっこよかったですよ今のー」

「もっと鬼か悪魔かと思ってましたー」

 女とは不思議だ。不思議すぎる。そもそも鬼か悪魔かと思っている奴に近づくことなんて普通だったらしないだろうと俺は思うのだが。それにしても、俺の噂は過剰に膨らんで届いているようだ。否定はしないが、鬼か悪魔か……そいつはすごいな。できることなら、それは前の組合長に言って欲しかったものだが。


「全く、顔だけはいいからそんなにもてはやされるのよ、アンタは。実際鬼とか悪魔よ。いやそれ以上のすさまじい何かね、この寝坊魔」

 聞きなれた、女子軍団の声を合わせたものに匹敵するほど俺に頭痛を促すこの声の主に俺は驚く前に眩暈を覚えた。

 わざとその方向へ視線を向けることの無いように俺は言うことにした。


「おいファルマ、何で俺がここにいることが分かった」

 セイは俺がファルマを呼びに行くと言っていた。その呼びに行く動作を確認することはできなかったし、そもそも俺の側にずっといたはずのセイにその暇があるはずもなかったので、ファルマがここに現れたことが不可解でならなかった。


「セイにアンタをここへ連れてくるよう頼んだのよ。組合長たるもの、弟子とのコミュニケーションをとらないでどうするの。朝はいつも独りで早いし、昼は勝手にどっかで食べるし、夜は遅いしで……。皆あんたのこと謎なのよ。顔をちらっとしか見たこともない人だっているくらいだわ」

 食堂といえば数ある組合の施設の中でも一番他人との交流を図れる場所である。勿論それはよく知っている。そうであるからこそ、俺はここで大衆と飯を食うのを避けているのだ。


「おい、セイ、そうなのか」

 すっかり空気を読んで黙っていてくれる(というより組合長と副組合長との会話に割って入ることは普通はできないか)女どもの手をのがれて席に戻ったセイは、うな垂れてこくりと頷いた。


「そうだとしたら、俺は無垢なお前に謀られたということか」

「ち、違うよ! 違うもんっ。シャドウが悪いんだもんっ」

「そうよ、アンタが悪いのよ! 何セイ責めてるの、アンタそれでもお師匠様のつもり? ほんっと情けないわ」

 あーあ、ヤダヤダ。とファルマは女どもにも分かりやすいように、わざとらしくため息をついてみせた。ご覧になって皆さん、シャドウはこんなに悪者ですよ、と俺の悪評を増すために大げさな演出をしているのだろうか。もしかして俺が悪魔の化身だという謎な噂はこいつのばら撒いた種のせいなんじゃないかとも思えたが、そんなことはどうでもいい。勝手にやってくれと言いたかったがそうはさせてくれなかった。


「あ、あんたたち、そんなのんびりしている暇は無いわ、課題は今日中。私の下に持ってきてよ、遅れたら勿論減点ね」

「は、はぁーい」

「先生、またここでお昼食べてくださいねー」

 ファルマは分かりやすく女生徒どもを厄介払いした。どうやらファルマの生徒らしい。副組合長は、その通り特進生に惜しくも加われなかった者たちの授業を担当している。ということは、少し俺に人数的な余裕があったのなら奴ら……少なくともあのらくがきならぬ魔方陣を書いた奴は特進生だったということか。大丈夫なのか、今の学生たちは。まあ、俺も特進生を始めて持ったときは大変だった。優秀な奴らを集めたと言うので覚悟をしてみたが、その心構えを見事に無駄にされたものだ。その代わり、どいつもこいつも一癖も二癖もあり、魔法に必要な想像力、独創性がたっぷりあって面白くはあったが。流石に学ぶスピードはやはり早かったので、今の奴も数年すれば立派になるのかもしれない。とはいっても、俺には既にセイという弟子として最も優秀な奴を持っているから、特進生といえどその成長に驚かされることはあまり無かったのだが。


「全く、あんた女生徒に人気あるわよね」

 また互いに顔を見合わせておしゃべりをしながら、先程の飯を放置して帰っていく奴らを眺めてファルマは呟いた。


「女は地位と権力と金を持ってれば食いついてくれるからな」

「それは否定しないけれど、アンタの場合、普段いないことでミステリアスっぽい雰囲気がでて、どうもそれが余計そそるみたいね。金持ちが普通に食堂でご飯食べてたらちょっと萎えちゃうでしょ、あんな感じでね。後は……そのツンツンした髪の毛はどうかと思うけど、銀髪だし、顔も割と中性的だからそこはしょうがないわ」

「何がしょうがないのか分からないが……俺にしちゃこんなのは嫌で嫌でたまらないんだがな」

 俺の顔はやや女顔であるらしい。自分の顔を自分では判定できないが、そうなのかもしれない。だから腕力がなかなかつかないのだろうか。そんな馬鹿なことはあるはずもないが、そのせいにしたくもなるというものだ。


「まあ、私はアンタなんかよりもっと男っぽくてがっちりしたアルフェイリア様みたいな人の方がよっぽど100倍素敵だけど」

 こいつは男好きの部類に入る奴だが、普通の女が好む(らしい)中性的なスマートな奴よりも、筋肉のある漢が好きという、ちょっと珍しいといえる趣味を持っている奴だ。まあ、魔法使いの組合の副長をやっていれば仕方の無いことかもしれない。本当はあってはならないのだが、魔法使いは魔方陣の開発や知識の摂取のために人生の大半を費やしてしまうことから、ヒョロヒョロした身体の細い、虚弱な奴が多い……多すぎる。魔法使いにおいて、身体が不健康なことは知識が乏しいこと以上にまずいことであり、身体を鍛えるということは魔力の強化に直接とは言わないまでも密接な関係があるというのに、言っても理解してくれない奴の方が多く、この組合員もほとんどが貧弱野郎である。いくら男好きといえど、そんな貧弱人間に囲まれてしまえば、もっとがっちりした頼り甲斐のありそうな奴にすがりつきたくなるのもおかしくはないかも知れない。とはいってもファルマのアルフェイリアに対する想いはそれを抜きにしてもけっこうしつこい。ミーハーという奴だろう。確かにアルフェイリアはこれ以上の奴を見たことが無いほど馬鹿力だし、そう言った意味では頼り甲斐のありそうな奴といえばこいつをおいて他にいないかもしれないが……。何せあの性格である。俺が女だったらあんなシスコンは勘弁だ。

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  1. 2008年03月21日 02:29 |
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Successor Of Dragon  その13

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 俺が愛用している部屋のソファーに比べることができないほど座り心地の悪いおざなりな椅子にもたれかけてすぐに、先程から俺のほうへ視線を送っていた、おしゃべりをしすぎたのか全く減っていなさそうであるご飯をテーブルの上に放置していた女子軍団が一斉に立ち上がった。

 なんなんだ、と俺が思った矢先にその女子達は急ぎ足で俺のほうへ向かってきた。互いに顔を合わせながら、時々ちらり、と俺の顔を見ては目をそらしながら。本当になんなんだ。


「先生、勉強教えてくださぁい!」

「先生、セイくんに触らせてください!」

「先生、課題が全然できませーん!」

 言うや否や、セイはその女どもに抱き上げられ、背中から触覚からとあちこちをぺたぺたぺたぺた触られはじめた。可愛そうにセイ、南無……と他人事で片付ける余裕が俺にもないようで、横から中途半端な魔方陣を書いた紙やレポートが突きつけられた。


「わーん! シャドウのばかっ。 助けてよぉ!」

 しっかし不細工な魔方陣だな、まるで美しくねえ、俺の生徒だったら眠る余裕が無いほど課題を出してやるぞ……と、埋もれているセイの情けない声を無視して俺は魔法陣に集中していた。そこは俺も一魔法使いで、たとえどんなに下手糞だろうが魔方陣を突きつけられたらついつい目がそちらへいってしまうようだ。俺は少し自分の性を恨んだ。

 俺は組合長といえど、組合員全員の顔は見たことはあってもさすがに名前と顔は一致しないし、こいつらがどんな奴かも知ったことではない(今の魔方陣でどれ程の魔法使いであるかは十分に把握したが)。特進生(組合長が担当する優秀な魔法使いの卵たち)ではない生徒であることしか分からない。話したことも、まあ、多分ないだろう。


「この魔方陣っぽいらくがきがどうかしたのか」

「わあああ、酷いーっ」

 噂どおりだわ、見た、見た? そんな悲しんでいるのか喜んでいるのか分かりかねる反応をしながら、女生徒どもはまた数回お互いの顔を見、頷く。


「おい、何を騒いでいる、何がしたいんだお前ら」

「シャドウ先生がここにいるの初めて見たので、折角だから教えてもらいにきました!」

「噂どおりの厳しさですねーっ。いいなぁ」

「私別に馬鹿でもいいやって思ってたけれど、これだけはちょっと勉強したほうがいいかもって思いましたもん」

 俺は既に女どもの甲高い声で頭痛がし始めていた。声が俺の頭を右へ左へと揺さぶりをかける。俺は怯んだが、ここで黙っていても状況が改善されないことが良く分かっているので、俺はとりあえずその一番初めに突きつけられた魔方陣(俺にはらくがきにしか見えない)を掴み、テーブルにたたき付けた。


「……」

 一瞬にして女どもがしんと落ち着いた。狙い通りだ。ここで解説モードに入れば少なくとも金切り声の攻撃を受けることはないだろう。いじられていたセイも落ち着いて、女どもの内の一人の手の中に収まったまま、興味津々で俺のほうを見てくる。


「いいか、間違っている部分はいろいろあるが、まず一番してはいけない間違いはここだ。魔方陣の勉強は外国語を学ぶようなものとよく言われているだろう? ここを間違うというのは基本の文の組み立てそのものの間違いだ。主語と述語が噛み合ってないと話そのものが成立しないように、この文の始まりがこれから程度について語るぞというサイン、書き出しなのにも関わらず、最後の締めが確認になっているだろうが」

「だって、シャドウ先生の書く魔法陣とかも参考にしましたけど、始めの文章はよくこれで終わってましたもん」

 ちっ。この馬鹿野郎が。……野郎ではないか。


「それは導入文だ。魔方陣でも多少規模が大きくなってくると、気分を整えるため、気持ちを落ち着けるために始めに唱える定型文を載せることがよくある。魔法を使うことにおいて精神状態がどれ程大切かは分かっているな。そのうちの一つだ。定型文そのものに実際の意味は殆ど無いと言っていいが、『我ここに誓う……』等の文を唱えると何となく気分が乗るだろう?」

 俺は全く少しもちっともそんな馬鹿っぽい文で気分なぞのることはないが、その文が入るとこれから大きな魔法を使うぞ、という意気込みが入ることは確かだ。


「そ、そんなものなんですかあ……」

「そんなもんだ。兎に角だ、お前等にそんな語りが入る規模の魔方陣を扱わせるわけはないだろう。一を知らないのに十をやろうとするんじゃねえ。下手に俺とかの魔方陣を見ないで、素直に教科書を見ろ、教科書を。あと、これは順番もおかしいぞ。程度、形、性質の順番に書け。性質と形が逆だ。誤字脱字も17箇所あるな」

 俺はトントントンと魔方陣を指先でつつきながら言い、もう一度その未熟な模様を見た。……訂正しよう。誤字脱字は18箇所だ。

 魔方陣を実際に書かせるというのはかなり実践的な授業で、まあ特進生ではないがそこそこ……普通より少しだけ上のレベルではあるだろう。だがいくら始めて(だということを祈る)の自分一人での魔方陣作りといえど、これは酷すぎないか。それともこんなものなのだろうか。前の組合長の時に俺が受け持った生徒もこうだったのだろうか。その頃の生徒のそんな細かいことまでは覚えていないから良く分からないが、こんなものなのかもしれない。

 さて、随分きつく間違いを指摘してやったのだ、へこんで俺などと関わるんじゃなかったと後悔して戻ってくれるだろう、ついでに食い途中の飯は片付けろ、メルが煩いから、と俺は期待の目でその魔方陣を書いたらしいおさげの女を見たが……。世の中、中々俺の思い通りにはいかないものだ。

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  1. 2008年03月21日 02:28 |
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Successor Of Dragon  その12

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「メルおねえさん! シャドウにいつもので!」

「はいはい。それにしても師が寝坊とはねえ。珍しいこともあるものね」

 セイは食堂に入るや否や、食器を片付けている50を過ぎた給仕長の元へ駆け寄った。メルは今は肌の皺が最早隠せない年になってしまったばあさんだが、オレが始めてこいつにあったときはまだあどけない少女だった。50年前の魔法組合の再開と同時にメルの親に、子を魔法使いへと仕立てるためにここへ送り込まれた、俺のかつての弟子の一人だ。その頃は、エリートを担当する組合長とは違い、俺はさして優秀でもない奴に魔法を教えていたものだから、メルは残念ながら魔法使いとして恵まれた環境にいなかったといえる。物心ついてすぐに無理やりこの組合に送り込まれ、一人前の魔法使いになってこい、と言われたせいか、魔法への興味は薄く、女の子らしい趣味へと興味が移ってしまった。その趣味とはお菓子作りで、時が経つにつれその趣味は料理全般へと移り、今では食堂を管理する給仕長となっている。

 セイがはじめ彼女にメルおばさん、と呼びかけたところ、やあねえ、おばさんではなくおねえさんよ坊や、とメルはよくある典型的な冗談を言ったのだが、セイはそれを真に受けてしまい、それ以降彼女をおねえさんと呼んでいる。素直すぎるその性格がメルの気に入ったのだろうか、セイが食堂へ行く度に奴を甘やかしてお菓子を提供していたりする。


「おい、何でこんなに人がいやがるんだ」

「何でって、もうお昼時よ。それもやや過ぎたけどね。今残ってるのはのんびり食べている人と、午前の用事がなかなか終わらなかった人たちってところかしら」

「ちぃっ」

 そういえば昼過ぎか。いつも早く起きる分、誰もいない食堂を占領していた俺は、やかましい場所での食事にはなれていない。これでも昼のピークは十分に過ぎているのだろうが、俺にとってはこれでも煩すぎる。俺は喧しいのは慣れていない以上に大嫌いだというのに。
 この食堂はとにかく広く、最悪一度に全員がここで食事をすることも可能な程の席があり、その数は4桁にも上る。全ての者を全部ここへ集めて軽い会議や宴会を行うにも適している場所で、実習室や巨大生物研究室の部屋の次にこの基地で広い。


「まあ、少し待ってなさい。甘さの欠片もない食事にしてあげるから」

「ああ、飲み物は別にいらん」

 俺の甘い者嫌いは、他のものが眉をしかめるほど酷いらしい。こっちからすれば、あんなベタベタしたものが好きな理由こそ分からないのだが。妊娠中の女ならまだ許せる(それならばむしろ存分に食え)が、俺より頭を使っていない奴に限って、頭を使うには糖分が必要だからこれは必要なの、というからたまったものじゃない。

 俺は適当に一番隅の席へ座った。他の奴と接触するのをなるべく避けたいからだ。俺が座ると、すぐに隣にセイがメルにメニューを見ただけで俺の食欲が満たされてしまいそうな量の昼飯を頼みつつ座った。

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  1. 2008年03月21日 02:26 |
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Successor Of Dragon  その11

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「メルおねえさん! シャドウにいつもので!」

「はいはい。それにしても師が寝坊とはねえ。珍しいこともあるものね」

 セイは食堂に入るや否や、食器を片付けている50を過ぎた給仕長の元へ駆け寄った。メルは今は肌の皺が最早隠せない年になってしまったばあさんだが、オレが始めてこいつにあったときはまだあどけない少女だった。50年前の魔法組合の再開と同時にメルの親に、子を魔法使いへと仕立てるためにここへ送り込まれた、俺のかつての弟子の一人だ。その頃は、エリートを担当する組合長とは違い、俺はさして優秀でもない奴に魔法を教えていたものだから、メルは残念ながら魔法使いとして恵まれた環境にいなかったといえる。物心ついてすぐに無理やりこの組合に送り込まれ、一人前の魔法使いになってこい、と言われたせいか、魔法への興味は薄く、女の子らしい趣味へと興味が移ってしまった。その趣味とはお菓子作りで、時が経つにつれその趣味は料理全般へと移り、今では食堂を管理する給仕長となっている。

 セイがはじめ彼女にメルおばさん、と呼びかけたところ、やあねえ、おばさんではなくおねえさんよ坊や、とメルはよくある典型的な冗談を言ったのだが、セイはそれを真に受けてしまい、それ以降彼女をおねえさんと呼んでいる。素直すぎるその性格がメルの気に入ったのだろうか、セイが食堂へ行く度に奴を甘やかしてお菓子を提供していたりする。


「おい、何でこんなに人がいやがるんだ」

「何でって、もうお昼時よ。それもやや過ぎたけどね。今残ってるのはのんびり食べている人と、午前の用事がなかなか終わらなかった人たちってところかしら」

「ちぃっ」

 そういえば昼過ぎか。いつも早く起きる分、誰もいない食堂を占領していた俺は、やかましい場所での食事にはなれていない。これでも昼のピークは十分に過ぎているのだろうが、俺にとってはこれでも煩すぎる。俺は喧しいのは慣れていない以上に大嫌いだというのに。
 この食堂はとにかく広く、最悪一度に全員がここで食事をすることも可能な程の席があり、その数は4桁にも上る。全ての者を全部ここへ集めて軽い会議や宴会を行うにも適している場所で、実習室や巨大生物研究室の部屋の次にこの基地で広い。


「まあ、少し待ってなさい。甘さの欠片もない食事にしてあげるから」

「ああ、飲み物は別にいらん」

 俺の甘い者嫌いは、他のものが眉をしかめるほど酷いらしい。こっちからすれば、あんなベタベタしたものが好きな理由こそ分からないのだが。妊娠中の女ならまだ許せる(それならばむしろ存分に食え)が、俺より頭を使っていない奴に限って、頭を使うには糖分が必要だからこれは必要なの、というからたまったものじゃない。

 俺は適当に一番隅の席へ座った。他の奴と接触するのをなるべく避けたいからだ。俺が座ると、すぐに隣にセイがメルにメニューを見ただけで俺の食欲が満たされてしまいそうな量の昼飯を頼みつつ座った。

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  1. 2008年03月21日 02:23 |
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Successor Of Dragon  その10

シャドウ1は俺と同じ地球の人(妥協)。
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「それにしても久しぶりに寝すぎたな。お前が運んだのか」

「うん。ほかに誰がいるのさ、シャドウのせいで皆ここにこれなくて困ってるのに」

 俺に会うという目的以外にも、この部屋には需要があった。一つは俺が気に入った本を手元に置く習性から、1000年かけて集めた様々な古書に溢れている、少しでも魔法に精通しているものなら飛びつきたくなるほど貴重な場所だということ。もう一つは、最上階ということもあり、この部屋唯一の窓から眺める景色は最高だということだ。

 前者を目的とするのはほぼ組合員全員で、俺も気に入った弟子はたまに入れてやったりもしているが、後者を目的とする者は大抵が女性だ。特にファルマは三日に一度はその景色を見ることを望む。


「よく俺が気づかなかったな」

「気をつけたもん、でも、久しぶりに深く眠ってたみたいだよ。何とか寝ているシャドウの半径3メートル以内には入れるようになったぐらいなのに、今日なんてすんごいあっさり近づけた」

 俺は睡眠というものは人間の最大の弱点だと確信している。どんなに優れた者だろうと、人間であるかぎり睡眠が必要になる。俺もその昔10日間ぶっ続けで研究に没頭したことがあるが、その時はさすがに死に掛けたものだ。目から血は出るし、そのことを他人に指摘されるまで気がつかなかったという具合だった。まあ、若気の至りだということで誤魔化しておこう。

 とにかく、俺は少年期を過ぎたあたりから、寝る時にはとにかく気を使っていた。誰が近づいても分かるように集中して仮眠をとる訓練を今に亘るまでし続けている。そのお陰で今まで無事に生き延びたと常々思うが、セイはそれを逆手にとって己の訓練の一貫としているようだ。俺が真夜中に人の気配を察知してその気配のする方向を睨みつけると、そこにはいつもセイが頭をかかえて、えへへ、と誤魔化し笑いをしながら、それでもすぐ後には悔しそうな表情をして、今度こそは、と言い放つ。その甲斐あってか、日に日に上達しているようで、目を覚ますたびに前日とは違う位置に……少しずつ俺のほうへと近づいてきていたりする。

 俺も俺でそのセイとのやりとりは睡眠の訓練にはなるんだが、酒が入っただけでこうもあっさり突破されてしまうとは、全く『酒と女は魔法使いの敵』という言葉には、まさしくその通りだ、と同意せざるを得ない。俺も酒は付き合いの時のみと自分を戒めてはいるものの、酒好きの一員ということは否定できなく、本当ならば毎日でも仕事を終えたすぐ後に飲みに行きたいと願っている身だ。

 いつもなら、飲んだ後はそのまま組合に帰らずにアルフェの城の空き部屋を適当に使わせてもらい、のんびりと帰宅していたものだから、飲んだ後の俺が隙だらけとは思いもしなかった、いや、ある程度は予測していたが、ここまで酷いと酒を恨まずにはいられなくなる。

 そんなことを考えていると、俺はふっと沸いて出た、ある懸念に駆られた。


「お前の嗅覚だ。変な……いつもと違う匂いがしたりしなかったか」

「うん、臭かった」

 はっきり言ってくれてどうもありがとう、俺は嬉しいぜ、子悪魔くん。

 予想通りの言葉に、俺は食堂へ行こうとした足取りを鈍らせた。セイはファルマを呼ぶといっていたな。さすがに対話する至近距離までくれば気づかれそうだ。女は男の不清潔感を何より嫌うものだから、きっと激しく攻め立てられることだろう。部屋の散らかりや、薬品に依存した奴の体臭等は俺も嫌いだが、自分の臭いとなるとさすがに気づかない。俺は自分の袖をそっと顔に当てて見た。予想通り、やはり分からない。まあ、この服は俺が俺のために作ったもので、敗れようが汚れようが常に新品同然の状態に自動修復される、ずっと来ていてもこの不潔野郎! 死ね! 帰れ! と女の弟子たちに心の中で思われたりはしない素晴らしい服だから臭いなどはそもそも付くはずがなく、嗅いでも無駄であったりするのだが、そこは気分だ。普通お前臭いよ、と言われたら、誰でも自分の袖付近を嗅いでみるものだろう。


「今も臭うか?」

「うーん、オレは分かるけど、大分消えてるから、皆には分からないかもしれない」

「そうか」

 それを聞いて俺は安心した。ファルマの愚痴のネタにだけはされたくはない。

 俺はアルフェと飲みに行く前まで読んでいた読みかけの本を拾い上げた。俺がソファーから立ち上がるのを見た途端、セイは部屋の隅にある魔方陣を起動させていたようで、早く早く、とこちらへ既に催促をしていた。元気ってのは羨ましいものだ。俺がガキのころはこんなもんだっのだろうか、多分、そんなに活発なガキじゃなかった筈だが。

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  1. 2008年03月21日 02:22 |
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Successor Of Dragon  その9

シャドウ1は俺の友人の友人の知り合い(他人)。
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「お昼過ぎだよ。ファルマ怒ってるよ」

「そいつは無視しとけ」

 セイは束ねた身に余るほどの量の資料を抱え込みながら困った顔をしてみせた。セイは子供ながらに物静かでやかましくないため、俺の部屋を出入りする許可を唯一与えてある。誰も入れないというのは、緊急の時に対処ができなくなることもあるからだ。それにしても、セイだとて気を使って俺の部屋で喧しく騒いだりしないというのに、大人の女というものはどうしてああ煩い生き物なんだろうか。セイの爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいところだ。

 セイにしてみれば、他の組合員と組合長である俺の間を唯一行き来できる身であることから、必然的に毎日山のような言伝を四方から頼まれているその状況はたまったものではないだろう。その上、俺が研究に没頭している時などは、気を利かせて資料なども常時あちこちを奔走しては提供してくれたりもする。このように本人の鍛錬に加えて実質的な副組合長として俺を補佐しているのだ、さぞかし苦労も多いだろうと思いきや、さすが子供というべきか、あちこち走り回ることそのものが楽しいらしく、今日も元気に資料をかき集めているようだった。……ただ、今はそれとはまた別の理由で困り顔をしているようだが。

 俺の昨晩のアルフェとの飲み……付き合いのせいでいつになく長めの睡眠をとってしまったことから、本物の副組合長であり、俺の二番弟子であるファルマの怒りの程度は予想できた。時期か時期だ、皆が皆切羽詰っているというのに、という甲高い叫びが聞こえてきそうだ。

 それらの怒りが、唯一俺へと通じる手段であるセイにぶつけられてしまったであろうことは、セイの表情を見ても一目瞭然というものだ。


「お前は魔法に関しては大人顔負けのものだが、そこのところはまだまだ子供だな。たかだか一人の女の小言を避けることができんとは」

 子供というのは素直だ。素直すぎる、と一蹴してもいいだろう。実際に見なくとも分かることだ。どうせファルマの筋の通っていない文句を全て聞き入れているのだろう。そのくせ、反論しても無駄であるのに奴の話の矛盾点を一々指摘して、よりいっそう噴火したファルマの火山灰のような怒号を浴びせられているのだろう。女の感情は上がり下がりが激しい上に理由が俺にとって意味不明かつ理解不能であるから困る。加えて大概が決まって早とちり、もしくは誤解して受け取ってそうなるから信じられん。ストレスでも常にたまっているんじゃないのか。不老不死でなかったら胃に穴が開きっぱなしであるはずの俺が言うことではないが。

 セイは少し頬を膨らませてきっとこちらを睨んできた。まあ、そりゃそうだ。お前の年でそんなことのできる奴の方が異常だな。どちらかというと、いや、はっきりいうと俺はませたガキは大嫌い(ガキがそもそも大嫌い)な部類に入るので、俺にとってはこちらの方がよっぽど有難いというものだ。


「シャドウはずるいよ。忙しいのは知ってるけど、でもずるい」

「ほう、どうしてそう思う?」

「……」

 途端にセイは俯いた。頬は膨らませたままだ。今の質問に対する返答を、足りない語彙の中からひねりだそうとしているのだろう。


「分かった。ファルマのところには今すぐいってやる」

「だめ。まず食堂にいって、ちゃんと食べてからだよ。ファルマもそこに呼ぶから」

 まるで俺の健康管理をしているかのような台詞をいいながら、セイはつんと手からこぼれた資料を拾い集め、再度まとめた。先ほどから続いているこぼしては拾い、拾ってはこぼすという一連の動作を見て、半分ぐらい持ってやろうかと思ったが、自分で欲張って選択した量だとも思い、やはりやめることにした。セイのためにはならないだろう。

 セイは、精神発達の過程でいえば、難しい時期に入りかけていると言える。今までなかった自分への過信や、ただの自慢に終わっていたはずの他人に対する優越感が少しずつ芽生え始めているからだ。その芽は早めに刈り取ってやらねばなるまい。己に過信した奴のたどる末路なぞ、ロクなものではない。身をもって実証済みだ。

 そもそも今まで一対一、マンツーマンでの修行だったことのマイナス面が出てきているのか。セイにとって自分の実力を測る基準は俺しかなく、俺と比べては落ち込んでいた。その度に重ね重ね、修行を詰めば俺なぞ楽に追い越せると思い込ませることでここまで鍛え上げることができた。そのことを踏まえて考えると、実用的な段階に……俺の補佐役を半分勤めるようになってから、周りと比べ己の出来具合を悟ってしまったのだろう、その余計としか言いようのない感情が芽生えてくるのは仕方のないことといえる。だが、それは邪魔だ。即刻刈り取るべき不純物だ、少なくとも今においては。時々、奴を他の組合員の子らと供に授業を受けさせていたらどうなっていただろうか、と考えてみるのだが、たどり着く結論はいつも同じだ。今よりも悪い結果になっていただろう。他の子らとのコミュニケーションは下手だが、俺やファルマといった大人との会話はできるのだ、大した問題はない。他の子らと一緒にするべくもない。セイが本当にただの人の子ならともかく、奴は特殊なのだ。

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  1. 2008年03月21日 02:19 |
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Successor Of Dragon  その8

シャドウ1は俺の知己。
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2 予期せぬ来訪者

 基は純白だったに違いないが、今は薄汚れた灰色の天井が一面に視界に入ってきた。それを見た途端、俺は瞬間的に身体を起こして辺りを見回していた。……何のことはない、ここは俺の部屋だ。俺がいつも書を嗜むときに愛用するソファーの上で寝ていただけで。俺のいつもの目覚めの風景は茶色の絨毯と向かい側の壁であったものだから、その違和感を身体が瞬時に感じ取ったまでのことだ。


「シャドウおかえり、おはよう!」

「セイか。今の時間は」

 俺が跳ね起きたのをすぐさま察知したのか、セイはすぐ側にきていた。

 俺の一番弟子であり、実力的には副組合長であるべきの、背中から黒い羽根を生やした子供。子供であるが故に、実力主義をモットーとする魔法組合の意向に添えず副組合長になれなかったこいつの魔法使いとしての能力は、紛れもなく本物だと俺が断言できるレベルだ。俺が組合長になってすぐ後に拾った捨て子のようなものだが、人間の子にしては余計なオプションがついているので興味が惹かれた。本来、俺はガキが好きではない、というより大嫌いなのだが、背中に生えているどう引っ張ってもとれない黒い羽根とよくよく見れば髪の毛を分けてぴょいと頭を出す触覚、普通の子よりも発達した犬歯が、正しく神話で描かれたような悪魔そのものの姿をしている(サイズが小さいので、小悪魔といったところか)ことに俺は驚かされた。

 魔法使いとしてある一定の境界を超えると起こる現象がある。人間から神になった、とでもいうべきなのだろうか、人々、或いは大衆の畏怖する想像のままに自らの姿を変えて行き着く先は総じて一貫性があるらしい。つまるところそれは人々が物語として語り継ぐ天使や悪魔のような姿そのものである。

 だが、それは人間として魔を極め、不老不死を手にした後の話であり、第一そのような者は(ただ一人を除き)とっくに……世の中に飽きたのかどうかは知らないが……自然消滅しているはずだ。このようなことは、不完全ではあるが不老不死である俺だからこそ知ることで、一般人に話しても、頭大丈夫かい、と心配されかねないことだ。だが資料をあさればかつてそのような者が確実に存在していた筈で、それらの者は神聖視され、今日あるいくつかの宗教のそれぞれの基盤となっている。

 だからこそ、俺はこのガキに興味をそそられたのだ。悪魔がもしいるとしたら、それは大人で、世の中のほぼ全ての魔法を知りつつも無愛想であるはずなのだ。だがこのガキ……セイという名前らしい(前の組合長に教えられた。こいつもまた謎すぎる奴なんだが)……ときたら、純粋で無垢で無知だ。普通の赤ん坊と酷似している。どうも気になり、こいつがただのガキかどうか、俺は俺の好奇心が赴くままにセイを連れて帰ったところ、悪魔っぽい外見は伊達ではなく、信じられないほどのスピードで教えたことを何でも吸収していきやがる。とにかく凄まじいのは、その集中力だ。魔法にはもって生まれた力のアドバンテージなどほとんどない。重要なのは、魔法に対する興味と、集中力と、幼い頃に魔法に触れていたかという、この三点だけだ。

 兎にも角にも、俺は自分の持つ全ての技術を叩き込むつもりで今に至るまでセイを教育してみたところ、今ではこいつはこの組合の中では俺に告ぐ二番手の実力の持ち主となった。まだまだ荒削りで子供の魔法使いによくある甘さがあり、俺の足元にも及ばないほどだが、この組合にいる適当な奴ら5人位なら一度に相手しても楽勝だろう。

 それにしても、こいつには……セイには感謝しなければなるまい。というのも、俺はこいつに魔法を教えるまでは組合長という座に立ち、誰かと師弟関係を持つなど(考えても見れば、組合員全てが俺の弟子みたいなものだからな。気が遠くなりそうだったぜ)嫌で嫌でしょうがなかった。誰が好き好んで他人の面倒を見なければいけないのか。おまけに将来に有望のある魔法使いたち(所謂エリート軍団)については、週に2・3度の頻度で特別に組合長直々の特別レッスンをしてやらねばならない(何しろ優秀な分一人ひとり個性ある魔法使いどもだ、それぞれのカリキュラム作りだけでしんどいんだ、これが)。この身を滅ぼすだけとしか言いようのないハードワークに少し楽しみを見出せたのも、セイのおかげというわけだ。こうもすくすく成長し、俺の技術を吸収してくれるのがこれ程までに嬉しいこととは、さすがに思わなかった。恥ずかしいことだが、俺は1000年生きたこの中で、誰かに魔法を教わることはあっても教えることはその機会まではなかった。教わることも数少なく、大半は自分との戦い、言ってしまえば一人空しく孤独に鍛錬してきたのが大半だからな。魔法を教えるということは、手のひらを明かすこと、自分に匹敵する……自分の地位を危うくする者を生み出すことだとしか取れなかったのも、今から考えれば仕方のないことかもしれない。まあ、こうして振り返ってみると、俺が教えるに足る者と判断できる者に接触しなかったことだし、今となってはそんなことはどうでもよく思えるが。

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  1. 2008年03月21日 02:18 |
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Successor Of Dragon  その7

シャドウ1は俺の友人の友人。
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「もとはといえば、俺が1000年前に撒いた種……。あいつの心臓にぶっ刺すのは、お前が磨いた俺の杖だと決めてあるからな」

「あ、ありがとう……? っていうところなのか、ソレ」

 奴からすれば、褒められているのかどうか分からない、というところか。

「言うところだ。ところで俺は帰る、ファルマに花火の使用色を増やされていそうだしな」

 ふと気づけば、早くに切り上げようと思っていた予定の時間より過ぎているらしい。日の出が近づいているせいか、周りの客も三分の一ほどに減ってきている。

 俺は一気に頼んでおいてほとんど飲んでいなかった酒を飲み干すと、そのせいで少しぼんやりとした頭を叩きなおして立ち上がった。そして目の前の中身のないジョッキを未だに握り締めている、全然酔った様子も見られない、頬すら赤らんでないアルフェイリアに金貨を一枚放り投げた。


「ああ、引き止めて悪かったな……って、俺が遅刻したから俺が払うもんだろ……最初っからそのつもりでいたのによう……」

「俺はいかなる場合でも、できることなら借りを作りたくないからな。弱味は握るもんだ。握られるものじゃない」

「弱味とか……おめえなんでもそんな風に取りすぎだろ、いちいちよ……」

「うるせえ、黙りやがれ。とにかく俺は帰るといったら帰る」

 アルフェイリアはそういうことに関してはこちらが妥協するまで長時間粘ってくることも承知しているので、さっさと振り切ることにした。上着の乱れを直し、埃くささを払い、俺の脚に上りかけたよく分からん虫(足が七本で、一本欠けてやがるのがなんとも目の毒だ)を焼殺し(もちろん魔法で)、双歩の魔法により通常の早歩きの二倍程度の速さで歩きながら、店を出た。

 見れば俺の大好きな夜の端がオレンジに染色され始めている。だがまだ今なら、俺のかわいいかわいい可愛さあまって小憎らしい弟子どもは眠りこけているだろう。四方八方から小言も聞かなくてすみそうだ。

 俺はそそくさと我が家を目指した。読みかけの本に挟んだしおりが俺に、早く抜いてくれ、続きを読んでくれ、という思いを抱えながら健気に待っていることを思えば、自然に足取りも速くなるというものだ。

 俺の組合は、1000年前に組合構成員が亡くなったことにより自然消滅した、かつての栄光の場所をそのまま再生利用している。当たり前だが、1000年の間に放っておかれたその場所は、腐敗防止の魔法をかけてくれる者もおらず、ところどころが朽ちていたので、大規模なリニューアルが必要だった。50年前、組合の復活と同時に一応形だけは見繕われたものの、残念なことに、当時は忙しさの最中疎かにしてしまったのだろう、50年たった今そのメッキがところどころで剥がれていた。大陸の強力な魔法使いたちが集まっている組合の本拠地が、高々50年も持たないもろい保護魔法を基盤としているのには、正直俺も驚いたものだ。

 俺のここのところの過労は、ビビの成人式というより、むしろこちらの問題の方によるところが大きい。というのも、この組合は切り崩されたそこそこの大きさの山の側面に建設された、遠めに見ればあまりの自然の雄大さに息を呑む人々がいてもおかしくないほどの絶景ぶりで、実際、遠く離れた場所から魔法使いでもないのに観光客がちらほら現れるほどだ(まだまだ魔法使いに対する偏見が強く、近づいたら魔法をかけられると思い込んで来られない人の方が多いが)。この絶景はこの組合の権限の象徴でもあり、実際に俺も気に入っている上、地理的に見るとこの建物が崩れるということは同時にそれが崖崩れへと繋がるものだから、この本拠地の保護は何にも勝る重要問題だ。このことは、外に、無論アルフェにも他言してはならないことで、秘密裏に対処するしかない。

 俺の部屋は、その崖の頂上付近のそこそこ広い部屋を俺のために誂え、もとは図書室だったが、腐敗して読めなくなった本が半数以上だったため、それを廃棄処分してできたスペースを利用して作られている。私用の本を置き、俺にとって不必要な本は別の場所に移された今の図書室に渡すことで、この上なき至上の空間となっている。ある一人(一匹?)を除いて、俺の許可無しでは何人たりとも勝手に入ることのない、まさしく俺による俺のための場所だ。

 唯一俺の空間に独断で入ることの許されているそいつは、床の上に広げた毛布(さほど大きくはないが、奴自身にとっては十分な大きさだろう)にくるまって安眠していた。この組合の中で一番の早起きといえば、俺を抜きにして考えるとこの身体をまるめた小さな子悪魔のみだ。俺は安心した。こいつが寝ているということは、誰一人起きてはいないだろう。

 俺はそいつが目を開けばいつでも視界に入るほどの位置にある近くの柱に寄りかかった。いかな俺とて、徹夜は辛いというものだ。早く寝るに限る。

 酔いが少し回っていたこともあってか、俺はすぐに意識を手放した。光がわずかにこの最上階にも差し込んできていたのを見るに、丁度夜明け頃だったに違いあるまい。

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  1. 2008年03月21日 02:14 |
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Successor Of Dragon  その6

シャドウ1は俺の知り合い。
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「ほう、お前がそんな言い回しをするとはな。さすがとでも言っておこうか。だが、分かっているだろうがそれは俺の役目だ。お前等が関わってもろくなことにならない。いや、決して関わるな、と釘を打っておくべきか。魔法使いに関わっていいのは魔法使いだけだ。ましてや、俺の弟の事だ。俺が一番よく知っている」

 俺の悩みがアルフェイリアに悟られたということもあって、一層悩みが深くなる。もともと考えるだけで忌々しいことであるのに。俺は、俺の中にふっと沸いて出た苛立ちを察知した。その途端に口元に寂しさを覚え、酒をもう一つ頼む。アルフェイリアはそれに便乗して大ジョッキを一つ追加した。


「シャドウ、俺の見当違いかもしれねえけど……、俺は、レジーが仕掛けてこない可能性の方が、むしろ低いと考えているんだ」

「決して外れてもいないし、むしろよい心がけだな。さらに俺がそこに付け加えるとしたら『それは必ず起こる』、だ。100%だと決めてかかった方がいい」

 レジーという言葉を俺は発する気がなかった。言葉に出すのも忌々しくてならない。俺の唯一の肉親、血肉を分けた瓜二つの弟のことを。何がそこまで苛立つか、はっきりと理由を述べるとしたら難しいが、あえていうなら自己嫌悪だろう。俺と考え方も外見も何もかもそっくりで、それでかつ、いやそれだからこそ醜いのだ。向こうも同じ思いでいることだろう。この1000年、俺が途方もないこの時間の中で、どうして境地に達して安らかにいることを望まなかったのか、あまりにも長い時間の中に何もかもどうでもよくならなかったのか、それこそ全てはレジーのお陰で、奴を憎たらしいと思う心があったからこそ、俺はいかにも人間的といえる感情を保ったままその長い時を過ごせたのだ。

 俺はこの大陸に生まれたが、不老不死っぽい身体を手に入れた後、しばらくここではない別の大陸に身を置き、そこで魔法の腕を磨いた。俺がある程度自身の力に満足し、組合復活の噂を小耳に挟んでこの大陸に戻ったのが50年ほど前だろうか。戻った後、俺は再編しつつある組合(この大陸の組合は1000年前の大虐殺で潰されたままだった)のために、若くて有望な魔法使いをかき集めた。その時、まだ俺は組合長ではなく、俺にとって忘れることのできない人物(悪い意味でな。こいつのことは嫌でも語る時がくるだろう)が再編後初の組合長になり、組合は栄えた。そして数年前、組合長が当然辞める、今の座を降りると言い出したのが思えばそもそもの……俺の苦悩の始まりで、次の組合長候補である俺と弟レジーをそれぞれ抱き込む形で、二つに魔法使いの勢力が分かれてしまった。だが、魔法使いとしての総合的な実力は奴より俺のが上(そこまで大差はないが)であることもあり、俺のところがこの大陸で最強の勢力を誇る組合になった。とはいっても当然、レジー側の勢力も残存したままであり、アルフェイリアの国とこの大陸最大の休火山フォルテウスから流れる大河グレミランを挟んで対立するレヴァノイア国と同盟を組んでいる。誰がどう見ようと分かりやすい対立の図である俺とレジーの組合。二つが分かれて以来、度々小規模な激突があった(小競り合いで、両者にそれほどの被害が出る規模ではなかったが、互いに緊張感を与えるには十分だった)のだが、どうしたわけかここ最近……一年前から急にプツリと争いが途絶えはじめたのだ。宣戦布告が来ない。決して友好関係が築かれたわけでもなく(ビビが成人式で発表する予定の婚約者はレヴァノイアの国王代理だが、それすら俺たちには関係ないものだからな)、ただ不気味にお互いを眺めあっているだけなのだ。レジーにはどうか知らんが、俺にはそれが薄気味悪くてたまったものじゃない。俺に屈服する気が無いのならさっさと宣戦布告でもしてきやがれ(俺の組合のが若干力が上だからな)、兄が怖いのかこの臆病者が、という旨を書いた文を出しておちょくってもみたが、何の反応も無い。気持ち悪いったらありゃしねえ。

 アルフェイリアも、この不気味さを察しているということだ。俺の弟子(組合長と組合構成員はいわゆる師弟関係にある。組合長という一人の師匠と、たくさんの弟子という構成だ)たちも、ル・ルヴァオールの平民どもも平和だ平和だといって別段気にもとめていないだろうが、常に戦局を眺める必要がある奴にもまた察するものがあるのだろう。


「とはいっても、こればっかりは……。俺が表立って動いても、おめえにとって邪魔なだけだろうしなあ。俺はおめえの万分の一ほども疎いっていうか、そっちの魔法に関しては無知すぎるんだよなあ」

 かつて、賢者と称された魔法使いがいうには、『全ての魔法を知るには神が私に一万の年をお与えくださらないと無理であろう。私は一生涯かけて全ての魔法における百分の一を学んだに過ぎないのだ』ということらしい。そうなると俺は十分の一を知ったということか。まあここまでくると、魔法もあとは大同小異、俺が全く知らない、理解不能な魔法は限られてくる。というのも、同系統の魔法を探すとしたら一つにつき何十も見つかるからな(全ての魔法を知ろうと思ったら、その系統の魔法を虱潰しに学ぶ必要は無く、まず1を学び、そして100を学べばいい。そうすれば、その間の98は自ずと分かるものだ。とはいっても、一は言うまでも無く簡単だからともかく、百を学ぶには相当の時間がかかるのでいずれにしても膨大な鍛錬が必要であることに変わりは無い)。

 賢者が100年魔法に打ち込んでそういっているのだ。まして、アルフェイリアがどれほどの魔法を知っているというのか。そもそも奴の専門は魔法ではない。剣であり、弓であり、槍だ。それでもあいつは国民や自らの身を守るために、守りに限定して数年ほど魔法を学んだというが。


「そういうことだ。不足の事態があったらお前は従来のシスコンっぷりを発揮してビビ、それと国民を避難させることだけを考えてくれるのが一番だ」

「そりゃあそうだ。そのつもりだよ。むざむざそんなお祭りの最中に戦おうとしたって、危険が増すばかりだしなあ」

 こいつの物分りのよさは、鈍いだとかとろいだとかシスコンだとかの、あらゆる要素を打ち消すほど価値があるものかもしれない。まあ、本人に言うつもりは決してないが(アルフェイリアを調子に乗らせると鬱陶しさが100倍になるからな)。

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Successor Of Dragon  その5

シャドウ1は俺の友達。
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「ふう」

 俺は視線を目の前の瓶を大切そうに胸ポケットにしまっているアルフェイリアに戻した。それにしてもこいつの声は大きいな。これで声音が高かったらこいつとの縁など最初からなかったかも知れない。


「なんにせよ、これでお前の武器の最新作が見れるというわけか。見るまでもなく最高傑作だろうな」

「そいつは任せてくれ。もうデザインも柄も型もできてるけどよ、既にこの段階で満足っていうか、達成感があるぐらいだからな」

 アルフェイリアは先の王アルフレッドが即位している頃は近衛兵隊長の座にいた。その任務も大変ではあるが、今ほど忙しくはないため、仕事の折に暇を見つけることはでき、その暇の中で武器を製作していた。剣、槍、戟、弓矢等々……を幼少の頃から、それらのありとあらゆる武器を扱えるように鍛錬してきた(しかも強要されたわけではなく、自分からやりたいと言い出したそうだからさぞ成果も出やすいだろう)アルフェイリアにとって、その頃から武具とはパートナーであったに違いない。アルフェイリアの治める国、ル・ルヴァオールでは、一人前の剣士は大抵、自分の剣を拵えるために鍛冶士と兼職していた。それは稼ぎのためでもあるし、自分で作ったものが一番信用できる、愛用できるという満足感のためでもあった。アルフェイリアもそれは例外ではなく、優れた剣士が優れた鍛冶士であるように鬼神アルフェイリア(まさに自国を勝利に導くために生まれてきたといってもいい奴の活躍を国民がそう呼んでいる)もまた、国が誇る随一の鍛冶職人で、その実力はビビの成人式に遺憾なく発揮されることだろう。俺の杖も、少しばかり奴に改良してもらっているし、定期的に手入れもしてもらっている。奴が磨いた後では、俺の杖の切れ味も違う。ちなみに、一般的な魔法使いが持っている杖は魔法の媒介にこそなれ、直接的な武器にはならないが、俺の愛用する杖は俺のたっての願いで先端を鋭利にし、殺傷能力を長戟並に高めてもらっている。魔法使いが肉体的に弱いと、あらゆる面においてお話にすらならないからだ。基本的には、魔法とは出し惜しみするものだ。

 ともあれ、奴のそれは愛情がこれでもかというほどに盛り込まれているだろう神器は、俺も楽しみとするところだ。


「ビビの武器さえ完成させれば、こっちの準備はほぼ完了かな。おめえの方は順調か?」

「さて、どうかな。順調とは言い難いがファルマあたりが出しゃばってくれてるだろうしな」

 俺はこの大陸の数多の魔法使いが名を列ねるこの国最高の魔法組合の長なのに、ほとんど準備には介入させてもらえていない。元来、国と魔法組合とは敵同士だったが、様々な過程を経た後、今では組合は国のバックボーンとして国と同盟を組み、後ろだてとなっている。魔法組合は国に魔力を提供し、国は組合に経済的な面で支援をする。組合はその資金で魔法使い志望のガキを一人前にするべく躍起になって努力をする。自分の組合こそは優秀な魔法使いの揃った組合だ、とアピールするために。より大きな国に経済支援をもらうために、だ。

 国の要人、今回の場合は国王の妹君であるビビの成人式となれば、同盟を結んでいる組合の派手なパフォーマンスとプレゼントが望まれる。なまじ俺の組合がこの大陸一なだけに、生半可なもてなしは許されないだろう。全く、鬱陶しいことこの上ない。


「お前が俺のとこの心配をするのは勝手にやってくれればいいが、だからといってどう変わることもないな」

 今更そんな質問をするな、そういう意味をこめて俺は言った。通じる可能性は0に近い。


「まあそういうなって。何も闇雲に聞いたわけじゃねえよ。おめえいつも具合悪そうな顔してるしな、不調な時だってそうそう分かりづらいもんだけど、今回ばかりは目に見えて悪そうだからなあ。寝てねえんじゃねえか?」

 具合悪そうな顔、か。確かに他人と比べてしまえば色白かもしれんが、それはアルフェイリアが飛びぬけて健康的(すぎる)肌をしているからそう見えるだけ、といつもの状態なら一蹴していただろうが、俺は否定はしなかった。ビビもそうだが、こいつらは自分の体調と比べ物にならない程、他人の体調を素早く悟る。人を支配する地位にあれば、自ずとそうなるのかもしれない。


「……寝不足ぐらいで俺が不調になると思われたか。見くびられたものだな」

「え、違ったのか。まあ、そんなことはどうでもいいんだ。そんな直接的な理由を聞きたいわけじゃねえから」

 もし俺が特異な体質でなかったら、冷や汗の一つでもかいたかもしれない。

 普段は鈍すぎるこの木偶も、厄介な方面で鋭くなる。この兄妹のうざさときたら、それこそ飛びぬけている。

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  1. 2008年03月21日 02:10 |
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Successor Of Dragon  その4

シャドウ1は俺の従兄弟。
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「そうか? 俺はおめえしかいないと確信してたがなあ。あいつを守りたい思いと、活躍して欲しい思いが入っていれば、本当は誰でもいいんだけど、でもやっぱ、国と組合の同盟上の関係もあるし、俺とおめえの中だしな! ほら、おめえ散々世の中の女に対しての愚痴いってたけどよ、まだビビ自体を否定するような言葉をおめえの口からきいたことねえし、そう考えるとどうしてもおめえが一番上の候補になるんだ。……少し本音をいっちまうと……ビビの……んゃの手は……借りたくないんだ。いや、特に理由がある訳じゃねえけど、その……兎に角、おめえが引き受けてくれれば、有難えんだ」

 この巨体も、ビビのこととなると婚約者という言葉を発することすらまともにできなくなる。それくらいの可愛がりようで、俺は既に耐性がついているからいいものの、初見だと100歩ぐらいは引くんじゃないだろうか。目に入れても痛くないのだろう、きっと。

 こいつをからかうのは楽しいが、寝不足だけは回避したい。睡眠といえば、人より必要最低限の睡眠時間はかなり少なめとはいえど、不老不死の癖に睡眠が必要などと人に知られた時には随分訝しがられたものだ。本人である俺が考えてもおかしいのだから、実際におかしいのだろう。というのもこれは当然の話で、俺が本当に完璧な不老不死であるというのなら睡眠など狸寝入りの演技をする時にのみそれ紛いの動作を行うだけであるはずなのだが、どうやら俺の身体は生憎『不完全』な不老不死らしい。怪我をすれば驚異的なスピードでに治るといえど痛みを感じ(大怪我の時には、場合によるが神経が治っていくその途中段階の激痛……皮膚や肉と言う壁無しに直接神経が晒されてるんだから当たり前だが……ときたら、下手に他人が感じる痛みよりは強烈だろう。ほんと中途半端で不便な身体だぜ)、直るまでは不自由だし(ハイスピードといっても心臓をぶっ刺されたら一日は寝込むだろう)、魔力は無尽蔵でなく浪費すればすぐに枯渇するし(あくまでも鍛えた分のみが頼りとなる。俺に魔法使いとしてのアドバンテージはない。フルに使い切ったら、つまり魔力が尽きたってのは普通の人間には生命活動に必要なエネルギーがなくなったという事だから、呼吸はできないし、五臓六腑を動かす力もなければ脳を働かすこともできない、つまり死ぬってことなんだが、この場合も一日以上は養生しないとならない)、そこまで有難いものでもない。まあ、時間がかかるといえど元通りになるし、かすり傷程度なら数秒で怪我? そんなものいつしたかなと誤魔化せるほど素早く完治するので無いよりはあったほうが有利なことに変わりはない。中でも最も有利なことは、頭も力も鍛錬した分現役のように進歩していくことだろう。これは、俺が1000年前に夢見た完璧な不老不死の力をもし完成させていたら得れなかったもので、その力を手に入れたが最後、俺は学も魔も極めることなく終わっていただろう。ただそのまま、不老不死を手に入れたその時の状態のまま長い時を変わらない目線で見ることになっていただろう。

 アルフェイリアの申し出を断るはっきりとした理由は無いが、この通り俺の血は自分でも良く分からないものである。肉を食っても血になることがないのだろう、古いものを新しいものへとする生命活動を魔法で静止されている俺の身体。外部に流れ出た血はすぐにもとの血管へ収まるし、俺の脳に酸素を供給してくれる血液はいつも変わらない。

 まあいいか。どうせ何とかなるだろ。

 普段なら、ここで様々な可能性をめぐらせていた筈の俺だが、血と金属の調合の仕組みが分からない今、考えようもないことに悩んでも仕方がないと早々に諦めた。ここで深く考えようものなら、アルフェイリアを脅してでもその秘密とやらを暴きたくなってしまいそうだからだ。


「光栄に思うんだな、アルフェイリア。俺の血は本来少しくらい知識のある魔法使いなら何に変えても欲しがるはずの素材だ」

 俺は低く笑うと、人差し指の爪で親指の付け根を刺した。ぶつ、と芋虫を踏み潰したような音をならして、血が静かに滴り始めた。そのまま放っておくとすぐに完治してしまうので、俺はふところから常にいくらか携帯している小瓶を取り出し、傷つけた手と反対側の指でその小瓶の口と傷口を空中で結んだ。血が弧を描いて瓶に収まっていく。容器が俺の身体の一部で八割程満たされた頃合を見計らって、俺はすぐにそれに栓をした。こうでもしないとすぐに俺の血は俺の身体に戻りたがってしまうからな。

 俺はぼうっと店を眺め回しながら、瓶を放った。アルフェイリアがそんな粗末に扱うなよ、と叫びながらあわてて瓶を掴み取ったのを意図的ではないが無視してそのまま部屋に視線を向け続けた。周囲に注目すると低いトーンからテンションの上がりきっているやかましい声まで混ざった耐え難い雑音が耳を刺してくる。俺はそれらの声の主の背に思い切り蹴りをいれたくなってきたが、先ほどまで俺もその雑音の加担者だったことを考えるとここは自重するべきかもしれないと思い直した。

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  1. 2008年03月21日 02:09 |
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Successor Of Dragon  その3

シャドウ1は俺の兄。
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「なるほどな、血か。だが、俺の血を混ぜて大丈夫なのか? 親や兄の血とは全く無縁の、どこのものかも知れない俺の血で」

「本当はな、これはその子に対して、母と父の血を金属に溶かして作るもんなんだ。だから魔法はあんまり関係ねえんだ。仕上げにちょこっと使うだけで。でもそのちょこっとの魔法と、血と金属を上手く絡み合わせるってのが1000年前から俺の代まで受け継がれてきた知恵で、極秘なんだけどな。……ビビの成人式、あとちょっとだろ。知っての通り、もう俺たちの親父もお袋も両方ともいねえから、代わりに俺の血と、あともう一人の血が必要なんだ」

 1000年前。俺の輝かしき青春時代の頃か。丁度大規模な魔法使い狩りが行われた頃だ。当時……今もさして変わらないが……、魔法使いとは隔離された存在であり、一般人とは思想、すなわち勉学の方法がまるで違うことと、その特別な力故に忌み嫌われ、かといって魔法使いもまたその他の一般人をどちらかというと見下す傾向にあり(かくいう俺も、その頃は魔法の使えない奴は人間じゃないと思っていたのは秘密中の秘密だ)、その二つは二大勢力となって対立していた。魔法は幼い頃の教育方法がその才能の有無を決め込むため、圧倒的な人数差で押し込まれた魔法使い側は武力による大虐殺を受けた。と同時に、奴らの中のエリートは研究の末、血、特に優れた魔法使いの血が何事にも有用であることを知り、その血を手に入れるためという裏の目的があったということは、この長い年月を生きてきた俺だからこそ知るものだ。そして、一時魔法使いの勢力は低迷し、歴史に表立って現れることはなくなったその頃から、大勢の魔法使いの血を礎にある王国……今のアルフェイリアがおさめる国は大国として栄えることとなった。

 今なら納得がいき、辻褄が合う。その1000年の伝統は、知らずしてアルフェイリアに受け継がれているのだろう。エリート層の技術だったそれは、いつしか王族だけに限定されたのだろう。まあ、最近は一応形式上を見ると戦力の均衡状態、つかの間の平和が訪れているともいえ、その際に暇人達が歴史を見直して再編し、新たなことを次々と発見しているいわば(俺の生きてきた中で3回目ぐらいの)歴史ブームが到来中であるから、アルフェイリアも、1000年前の大虐殺という自分の国の黒歴史については大まかには知るところだろう。これが国民に普及するのは、まだもうちょっと先のようで、まだまだ知識層の中でのブームに過ぎないが(そもそも国民は歴史なんかに興味をそうそう示さない。束の間の平和であるだけに)。知識人など戦争中には訳隔てなく現地へ派遣させられるものだ。

 しかし、俺の血を頼んできたということは、アルフェイリアは偶然か、勘によるものか、いずれにしても中々良い選択だったといえる。紆余曲折を経て不老不死を(一応)手に入れている俺の、生まれながらにして魔法教育を叩き込まれ、以後その研究をほぼ一貫し怠ることのなかった掛け替えのない血は付加価値としては最高だろうと自負するところだ。だが、不老不死の血が変な副作用を齎すかもしれないことは不安である。

 ……少しの間そんなことを考え、俺は意志を隠しつつ返答した。


「俺を選んだことは正しいがな、果たしてそれでいいのか? ビビと俺は確かに面識こそあるものの、密接とはいいがたい関係だ。そもそも、あいつには婚約者がいるだろうが。発表するのは式そのものの最中だから、まだなんともいえんがな」

 アルフェイリアの妹……王族に生まれたからには、恋愛結婚など望むものではない。これは当たり前のことで、常識ですらある。ビビも分かりきっているようで、嫌がりもせず、なんて悲しい運命なのと普通のお姫様にあるべき態度も取らず、そんなこともあるよね、と大らかに構えていた。微塵も不安を感じさせない、いかにもアルフェイリアの妹らしき余裕と図太さ(肯定的にいえば強い精神力か)というべきか。だからこそ、アルフェイリアの妹自慢も、単なる兄バカに留まらず、後世に伝えるべき偉大なるわが妹よとでも言いそうな感覚であるのだろう。少しばかり大げさかもしれないが、決して遠くはない。もしもビビが愚妹でアルフェイリアがあれ程の兄バカであるのなら盲目としか言いようがないが、そこはなるほどアルフレッドの長女、アルフェイリアの妹というところか。俺が見てきたどの女よりも冷静で、(普段は腹減っただの、この飴は美味しいだのなんだのと阿呆な話ばかりだが)ふと自らの意見を述べねばならないような時は、俺の背筋すら凍らされるような、どこまで見通しているのか分からない……形容しがたい感覚だが……あえていえば、底なし沼の底を見たかのような、ぞくりとした感覚を与えてくる。冷静とは半分残酷で、収束され合理化された奴の本音は、今でも忘れられないものが多い。

 俺が今のビビぐらいの年齢の頃、そこまで気持ち悪いほどの徹底した思想を持っていただろうか。ビビはアルフェイリアとは違う意味で天然で、どんなことも平気でさらりと言ってしまう。そして言うからには自分の言葉に責任を必ず取り、そして自分の言葉を本気で信じているのだ。そんなビビの言葉の一つ一つが、俺に対する挑戦、あるいは挑発となり、俺を刺激する。普段がのほほんとしているだけに、そのギャップときたら俺には考えられない。

 それゆえに、ビビとは中々親しい間柄にはならなかった。俺が拒絶していたからである。若く開花した才能への嫉妬なのかもしれない。否定は出来ない。それを埋もれさせてしまうにも惜しいし、かといって野放しにしてしまうのも抵抗がある。ただ、奴の才能を肯定的な目で見るとすると、一つ残念なことがある。アルフェイリアはビビの才能に気づいてはいるものの、どこがどうすごいのかイメージが掴めていないらしい、ということだ。なんかビビ凄えな、ぐらいのものでしかない。やはり盲目か。

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  1. 2008年03月21日 02:07 |
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Successor Of Dragon  その2

シャドウ1は俺の嫁。
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「悪ぃ、悪ぃ、待たせたな」

 言葉とその言葉に込められた感情が明らかに一致していないに違いあるまい……そんなことを思わせる口調でしばらくの間空席であったテーブルの向かい側へと座り込むこの木偶こそが、先ほど俺が心の中で救いようのない大馬鹿だと散々に罵った相手だ。大男、と形容するのが丁度いいくらいの体格ながら、引き締まり隆々とした筋肉を持つ少し日に焼けた肌と力という一点において完璧に近い身体を持つ。赤髪で寝癖をそのまま固めたような無造作ヘアーに、身にまとうものは身分不相応といえる薄汚れた紺色のズボン、クリーム色のシャツの上に鎖帷子、またその上に深緑色の上着を羽織と、みすぼらしいとまではいかないが、その格好は極めて質素だ。体格は述べたとおり、誰しも、そう、魔を極めたといえるこの俺でさえ羨ましがるほどのもの持っているのだが、如何せん、思考回路が勿体無い。勘違いさせてしまいそうだが、決して頭が悪い、回転が遅いというわけではない。思想と思考が俺と食い違っているだけ……と言えば聞こえがいいだろうか。簡単に言えば単なる兄バカで、シスターコンプレックスという奴なのだ。しかも重度の。


「全く悪すぎるな。お前から呼び出しておいてそのざまはなんだ。自分の身の忙しさぐらい分かってんだろう? また無理をした時間指定をしやがるから大概にしてこういうことになるんだ」

 こいつのこういうところは、今に始まったことではない。これが別の人物だったら俺の毒舌ももっと栄えていただろう。


「う……、なんていうか。全く、返す言葉がねえ……」

 言い終わると奴はただ、すまん! と一回頭を下げた。そういった態度をとられると、俺としてもこれ以上責めようがなくなってしまう。奴はこれを天然でやっているんだから、ずるい野郎だ。

 これ以上の文句を言っても気持ちよく謝られるだけであると重々承知している俺は、さっさと本題に入ることにした。


「それで? 偉大なるアルフェイリア王の妹君のために俺がしてやれることなどありましたかね?」

「ほんと、すまねえな。おめえだって忙しいのによ」

 だからこそ、早く用件を済ますためにこいつ……アルフェイリアは時間指定を早めにしたのだろう。裏目にしか結果がでないのに、懲りずも、だ。


「否定はしねえな。お前と比べちゃ劣るだろうが……。こっちは周囲の奴らが進んで分担してくれるからな。お前はそうはいかない仕事がいくつかあるんだろ」

「そう、今日はそのことできたんだ。どーしてもおめえにしか頼めない頼みがあるんだ、シャドウ。同盟のよしみ、組合長の任だと思って受けてくれないか」

「そのことだと? お前にしかできない仕事に関して俺に何ができるっていうんだ」

 俺は虚をつかされた。話といってもまた他愛のない妹の自慢話をされつつ、行うべき事項の確認程度だけだと思っていたからだ。


「うーん。なんというか、するのは俺だけど、俺だけじゃできない……いや、俺だけじゃ足りないって言えばいいのかな? 道具も職人も揃ってるけど、材料が足りない。そんな感じなんだ。シャドウ、おめえは俺の国の国宝のことについては知ってるよな? どこまで知ってる?」

「あれか……。一般人と同じくらいの知識程度だとは思うが……。王家の直系の人間だけが持つ固有の神器のことだろ。まあ平たく言えば武器だな。代々受け継がれる物とは違い、お前にはお前の、お前の親父アルフレッドにはアルフレッドの固有のモノがある。それぞれは父が子に独自に伝わる手法で手がけ、成人式の際に渡される。どういうわけか、その本人以外がその武器を使用しようとすると拒絶反応が起きる腑に落ちない物体だ」

 アルフレッドは既に他界している。この場合ビビの神器は、アルフェイリアが直接作らねばならないのだろう。おそらくアルフェイリアの話の脈から、そのことで手伝えということなんだろうが、俺は正直あの武器に関しては胡散臭いという、ただそれだけのイメージしか持っていない。一般人の寿命の約十倍の年月を生きた俺にとって、仕組みがはっきりと理解できない魔法というのはそもそも存在しないはずで、本人以外が使うと切れ味が鈍り、機能性が大幅に下がると言うそのシステムには納得のいかないものがある。アルフェイリアがいくら仕様だからといえど、気に食わないのだ。  俺の不満感が伝わったかどうか分からないが、アルフェイリアは俺の顔色を少し伺ってから続けた。


「うん、まあそんなとこだよな。実は、実はっていうほどのもんじゃねえんだが、仕掛けっていっても大したものじゃねえんだ。……シャドウ、おめえ……貧血気味だったりしないよな?」

 その言葉で俺は直に閃くものがあった。考えてみれば単純だ。俺は武器作りに関する知識に疎い。それが災いしてその仕組みを掴めなかったのだろう。

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  1. 2008年03月21日 02:02 |
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Successor Of Dragon  その1

さて、ようやっと小説を載せられるどー!
前にも書いたけど、諸注意をば。
もし前にも読んだことがある人は、その18まで一気にとばしてね。

サイトにもアップしたので、そちらからでもどぞん。
携帯でも見れるようにしたけど、携帯の人はブログで見るのをおすすめしますんぬ。
でも一応ご案内。

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1.基本的にふぇの妄想だよ。普通に魔法とか王国とが出てくるよ。
2.恋愛要素はまず期待しないでね。あるにはあるけど……。
3.シャドウ視点で、そいつが主人公。シャドウはこいつ→シャドウ1
4.戦争の話も出てきたりするので、苦手な人は注意してね。
5.基本的にシャドウの性格に我慢できなくなったり、この阿呆め!と笑い飛ばせなくなったら閲覧はしないほうがいい感じかも。






「もしアルフェがピンチになったら、おいらが助けてあげるよ」
「ははは、そいつは嬉しいなあ」


1 酒飲みの同盟者

 俺は何度となく自慢された、奴の幼少の頃の会話を勝手に想像しながらただぼうっと酒を飲んでいた。
 ただっ広いこの世の中には救いようのない馬鹿がちらほらいるものだ。一言で片付けてしまったが、馬鹿というにも様々な種類の馬鹿がいるもので、俺が長く生きてきた人生の中で、この手の馬鹿は比較的多いほうだ。幸いなことに、大別すればこの手の馬鹿には害はなく、むしろ人間的だと肯定的な視点から捉えることもできる。

 だが、そいつとの腐れ縁が切れず、今日もまたこんな城下町外れの酒場で奴を待っている俺もまた、類は友を呼ぶという諺になぞらえるとするなら、救いようのない馬鹿の一人である可能性は否めないわけだ。

 俺は手元のジョッキが空になったことに気がついた。ぼうっとしている間に飲む酒というものは、実感がない上に早く終わってしまうものだ、全く。

 それにしても、この酒場ときたら酷く汚い。もともと酒場というものに清潔なイメージなんてものは無いが……酒場といっても下を見ればキリがないということか。全体的に薄暗く、むさ苦しい。もともと頼りなげなランプに張られた蜘蛛の巣と、ところどころ腐ったこの酒場を構成している木材がより俺の不安感を掻き立てる。

 不満点を挙げればこのようにキリがない……と散々に貶してはいるものの、この場所が嫌いなわけではない。むしろ気に入ってすらいる。現に、その数々のマイナスファクターを持っているにもかかわらず、この場所にはいつ来ても人が絶えない。それはこの酒場の薄暗さ、汚さが持つある意味での良さとも言える。何しろこの雰囲気だ、他人が気にならない。というより、関わりたくないというべきか。好き好んで見ず知らずの酒臭い他人に近づく者などいるはずもないからな。さらにその暗さはそうして周りを遮断した上で、自分の、あるいは親しいもの同士の独自の空間を勝手に作り出すことを可能にする。ここならば、普段他人に話せないようなことが周りの目を気にせずに言える。それこそ、猥談紛いの女子供には聞かせられない下品な話から、組織同士の責任者同士のここだけの話から、だ。昼間はいざ知らず他の家々の光が消え、静まり返った深夜であるならば、汚さ、薄暗さでさえ、二面性を持てるということか。

 さて、どうしたものか。一人の奴も珍しくはないが、大抵は二人か三人の内輪でのご来客が多い中、俺を呼び出した張本人は遅刻ときた。酒も手伝って、よりいっそう各々の世界に浸っているこの空間にいれば、わずかながら空しさを感じるというものだ。先のことを考えれば、酔いつぶれることもできない。時間を持て余すのが嫌いな俺は、これからの吐き気を催すような予定を思い浮かべ、どう無事に切り抜けていくかを頭の中で整理し始めた。これからの忙しさを考えると想像しただけで目の下のクマが増えそうだ。白髪も増える・・・…と言いたい所だが、俺は元々銀髪だから幸いにもそれは関係ない。とはいえ、ストレスが齎す影響はそれだけではなく、むしろ白髪など様々な悪影響に比ぶれば霞むというもの。もしも俺が白とかけはなれた色の髪を持ち、女であったのなら話は別になってくるが。聞くに髪は女の命らしい。俺にはよくわからんが。
 やはり一番面倒なのは人事、あいつらにどう言う事をきかせるかだな……、俺は悩むうちに、ここで悩んでも仕方がないことだ、と分かりきっていたはずの結論を確かめた頃に、ようやく待ち望んだ相手がやってきた。

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  1. 2008年03月21日 01:57 |
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