戯言がいっぱい。

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Successor Of Dragon  その32

3章、長ぇ。
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「もし、あなた。魔法組合組合長、シャドウ様でいらっしゃるかしら?」

 どこぞの貴族なのだろう、目のチカチカするような華美なドレスに身を包み、化粧という皮を一枚被った中年程度の女が俺に話しかけてきた。吟味しなくとも分かる。間違いなく、俺の苦手な部類の人間だ。


「そうだが」

「ああ。光栄だわ、生きる伝説とこうして話ができるなんて。あなたのお噂は、それはもうかねがね伺っております。誰もが言ってますわ、あなたに敵う魔法使いなんて存在しえない、と」

 やたらと語弊がある物言いをする女だ。もしも俺が最強だとするならば、とっくに魔法の研究なぞ止めていただろうに。そしてこの手の見え透いたお世辞女は、大抵は何か問題をひっさげてやってくるものだ。


「うちの子、スティルヴといいます。数年前にあなたの魔法組合の門を叩きました。勿論ご存知でしょうけれど……、あの子も私も、こんなにもあなたの教えを直接請いたいと思っているのに、どうしていつまでも受け入れてくれませんの?」

 そらきた。言わんこっちゃない。俺は密かにテーブルの淵をこん、と叩き、ファルマに合図を送った。ファルマはあの女に見えない位置で手を振った。スティルヴという子を知らない、という意味だ。そりゃそうだ。数千を超える魔法使いの卵どもがいるというのに、一生徒の名前を覚えろという方が無理だ。そんなことをするより、魔法に新たな定義をしてやる方がよっぽど有意義ってなもんだ。

 魔法組合で育てられる魔法使いの卵どもは、組合復活当初からしばらくは孤児や恵まれず、貧しい家庭で生まれた故にその家で養いきれなかった子が大半であり、わざわざ自らの大事な子らを預けるということは稀であった。それだけ一般大衆に魔法使いという存在が浸透していなかった(いまも当時より緩んできたとはいえ、まだまだ胡散臭い存在として認識されている)ということであるが、今はまた事情が変わってきている。少なくともル・ルヴァオール王国では。貧しいといえども、ある程度の生活は保障されているため、少なくとも子供を飢えさせる事態は発生せず、むしろ通常の家庭では一人でも多くの働き手が必要であることから、専ら魔法使いに預けられるのは裕福な家の子、特に長男長女を除いた者ばかりである。ル・ルヴァオールに宮廷魔法使いとして仕官し名声を得た魔法使いがちらほら現れ始めたことから、少しずつ注目され始めたのだろう。一番年上の子には家督を継がせた後、他の兄妹を魔法組合に預けて魔法使いとして高い地位を得ようという心積もりか。確かに、上手くいけば『王の手足』へと配属されるかもしれないし、下手をすれば単なる一貴族や商人に甘んずるよりも得かもしれない。そして何よりも一般の国民よりも貴族の子らが多いという一番の理由は、城で魔法使いという存在を身近に感じるようになったということだろう。俺たちが魔法のない生活を考えられないように、魔法の使えない者からすれば、魔法というものは魅力的に見えるはずだ。それを身近な者……自分の娘や息子が使えるようになる可能性があるのだというのだから、気持ちは分からなくもない。そもそも、昔は魔法使いに自分の子を預けるというのは最終手段で、できることならば避けたい状態であった。むしろ一般的な階層にいる者どもこそ、一攫千金のチャンスであるにも関わらず未だに中々志願者が奴等から現れないのは、未だに拭えぬ魔法の胡散臭さによるものだろう。ちなみにファルマも、この時代の戦争で一儲けして成り上がった商人の娘だ(ただし一人娘だが)、むしろセイなどは本当の例外だといえる。

 こういう事情もあって、組合には貴族の者が多い。それでも幼少時にその子らを引き取るから、貴族特有の如何ともし難い我侭な性格を持ち合わせていないのが幸いだが。俺の目の前に丁度いるような。尤も、これは典型的な例すぎるか。


「知らんな。頼まれたところで、俺はこれ以上受け持つ生徒を増やす予定などない。それに魔法の腕は誰に教わるかという、師の存在のみで変動するものではない。スティルヴという奴本人の努力次第だ、としか言えんな」

「まあ、嘘はいけませんわ! いくら貴方が優れた魔法使いだからといって、適当な言葉で私の目を誤魔化そうなんて、そうはいきませんわ。もし貴方の言うことが正しいというのなら、この国に仕えておられる宮廷魔法使い達がほとんどと言ってしまってもよろしい程にあなたの指導を直接受けていた者たちばかり、なんて結果にはなっていませんわ。分かっておりますのよ。国への推薦は希望があり次第、全て貴方の一存で行われていると。つまり、あなたのせいですのよ」

 さあて、どう抑えたものか。この目の前の勘違い女をではなく、この俺のいらつきをだ。

 俺の本音、下手にお前の息子か娘かは知らんがそいつに才能がないからだ、と言ってしまえば最後、火に油を注ぐ結果となり、ファルマの発狂状態よりも数段恐ろしいものが俺を襲うだろう。何とか穏便にやり過ごすしか手は無い。

 こういう時に頼りにならんものか、お前のところの貴族だ、俺はそう思ってアルフェイリアを横目にちらと見た時、俺の側に控えていたセイが我慢しきれなかったのだろう、感情をそのままに出した発言をした。


「違うよ、おばさん。シャドウはいつもダメな人にはダメ、できる人には悪くないなってちゃんというもん! だからアルフェさんのところにお勧めしたのは本当にできる人だけだよ。だからスティルヴさんがちゃんと勉強したらちゃんとなるんだよ!」

 その言葉は何てことを、とセイを恨めしく思う感情と、よくやった、と褒めてやりたい気持ちを俺に同時に沸かせた。子供の無垢な心は怖いが、ストレートで助かることもあるということだ。隣でファルマがあちゃあ、私は知らないわとそっぽを向いていた。薄情者め。


「それがあなたのお気持ちですか、魔法組合組合長様?」

 俺は黙っていた。俺のその無言は、肯定と捉えられたようだ。実際そうだったのだから仕方が無い。当然のことながら予想していた結果が返ってきた。


「それでは、何か! うちの子が勉強もロクにできないダメな子だとおっしゃりたい訳ですね!?」

「一言で言えば分からん。俺はお前の息子の成績など把握していないからな。把握している者の方が少ない」

「なんてこと! あなた、それでも組合長と言えますの? あなたが……本当かどうかは知りませんけどね、七日七晩で一国を滅ぼした伝説の魔法使いが自分の組合一つのことも知らないで、この国の役に立てますの?」

「私もそれはどうかと思うわ……」

 その噂については、何も言うことができない。

 まあこの部分は俺にも、全く非がないという訳ではない。だが、滅ぼすのと知るのは待ったく別のことだ。そんなことを比較対象に出されても困る。第一、俺は魔法組合長になることでさえそこまで乗り気ではなかったのだ、他人の、それもまだガキの魔法使いに関する興味が全く無いといっていいのに、全員のことを把握していろだと。そもそも組合長とは人より優れた魔法使いがなるものだ。人より優れた魔法使いというのは人よりも沢山魔法に取り組んだ者のことを言う。自分と同等に近い者の魔法使いと接触するならば己の魔法使いとしての腕の向上になるからともかく、まだ魔方陣も一人で描けぬ未熟者どもの面倒など見切れてたまるかというのだ。そういった仕事は部下に任せるに限る。例えば、そこで賛同しているファルマ等に。

 全てを説明しようとしたところで理解をしてくれはしないだろう。俺は言葉を捜しつつ返答しようとした途端、新手の刺客が現れた。


「まあ、ベイル様、抜け駆けはよろしくありませんわ。あなたの主張、理解できない訳ではないですが、それでは肝心の目的と離れていくばかりですわ」

「あら、フォルシナ様。それはどういう意味ですの」

「私が思うに、あなたの息子ではなく、あなたの配慮が足りないのだと思いますわ。そう、シャドウ様にね。正直におっしゃってくださいな。何か入用はありませんか?」

 またか。もううんざりだ。この二人は貴族どもの中でも特に格式の高いほうであるらしく、ぞろぞろと集まってきたほかの貴族どもが数歩離れて俺たちを取り巻いている。

 俺が滅多にこういった場に顔を見せないということが禍したのだろう。今の機会をまたとないものだと判断したらしく、早くも強烈な洗礼を浴びせられた気分だ。先程横目に見たアルフェイリアは、ヘルゼとのビビに関する(勿論、アルフェイリアの一方的なものだ)話に熱中していて、とても助け舟を出す雰囲気ではなかった。使えん奴だ。


「お前たちに何か頼むほど俺は困っていない」

「そうおっしゃらずに、何かありませんの? ああそうだ、魔法使いさんって、ミスリルがお好きなんですよね確か。この間主人が……」

「ねーねー! アルフェ!シャドウ!」

 これ以上ないほど良いタイミングで、ビビが大きな助け舟を出してきてくれた。どことなく奴の背後に後光が指している気がする。


「おおービビ! ほんとすごかったぞ、さっきの!」

「ん? 何がだい。それよりさっ、聞いておくれ」

 ビビは先程の演説のことなどとうに頭にないのだろう、とにかく今話したいことしか考えていない様子だった。それでも、俺にとってはあの貴族の女どもの話よりは余程いい。それにしてもアルフェイリアめ、先程までヘルゼとの会話に夢中になっていたくせに、ビビのこととなるとこうも態度を変える。


「アルフェ、ちょっと前に言ったでしょ、手足にお勧めしたい人がいるんだー」

「何だ、俺を呼んだ意味が無いじゃないか。魔法使いなのか?」

 王の直属軍団『王の手足』に関しては、ウィスパが所属していることと隊長がバーゼルという老将軍だということしか知らない。要するに、俺とは到底無関係のことに思える。だがどうあれ、俺にとってしてみればこちらの話題の方が有難いが。悔しそうに眉をひそめるベイルだかフォルシナだかを見て、俺は心の中でほくそ笑んだ。


「うん、あのねい、おいらの魔法に近いかも? あれ、おいらのは魔法はいわないかも知れないから、魔法じゃないかも」

「魔法に厳格な定義域なぞない。だが恐らくお前のそれは魔法だろう」

 魔法という概念は、俺のような魔法使いが存在する随分前からあった。普通の人々には起こせぬ不思議な現象を一般的に統合して呼んでいた様だ。今使われている意味での『魔法』が体系化しつつあるとき、その力が一般人から見れば余りにも不可解な力であるために周囲から勝手に魔法と呼ばれていた。あまりにもその呼び方が浸透していたため、当時の魔法使い達もそれに馴染んでしまっており、自然と定着してしまったらしい。そして年月を経、よくよく研究を重ねてみたところ、今では魔法は不思議な現象でもなんでもなく、呼吸をしたり考え事をしたり等という動作とほぼ変わらないものであるということがはっきりと証明されている。だが、未だに魔法は魔法と相も変わらずそのままの形で呼ばれ続けており、魔法に縁のない一般人が魔法が一体どういうものであるのかということを混同してしまう結果を招いている。俺の感覚からしても、確かに魔法という言葉はどこか神秘的な響きを持つような気がする。これほど理詰めで計算尽くされた学問も珍しいというのに。かといって、今更名称を変更するには手遅れであろう。厄介な話だ。だがこういった例は珍しいものでも何でもなく、他の学問でも良く見られる現象だ。まったくもって偉大な過去に定義を縛られるのは、後世の人からしてみればたまったものではない、はっきり言っていい迷惑だ。
そういったこともあって、何が魔法で何が魔法でないのか良くわからない、とビビが首をかしげるのは至極当然のことだといえる。このことは恐らく、一般人が魔法に対して抱く胡散臭さと全くの無関係ではないだろう。


「へえー、なかなか面白そうな人材だなあ。こりゃあ楽しみだな。ん? そいつ、ここに連れてきたのか? いねえみたいだけど」

「任務中さ。まだ手足じゃないもんね、おいらが頼んどいたよ、ちょっと手薄っぽいところに」

 手薄。必死に警備を固めようとして入るが、安全を確保することは中々に難しいだろう。城の守りをいくら固めても、相手が魔法使いの場合は無意味になってしまう。その原因が空からの奇襲だ。竜に乗って、あるいは魔法または魔法具で空を駆け抜けてくる。ある程度応戦することはできるが、それでもこちらが城という大地に縛られて動けない状態が齎す歩の悪さは用意に想像できるだろう。その厄介さが、今回の懸念の原因でもある。この城が大国でなく、大したことのない小城であったのなら、魔法使いの一軍団を裂いて魔法でこの城全体を覆うような強大な防壁を張れただろう。だが、この規模ともなると城と組合を含めた魔法使いをほぼ騒動員でもせん限りは無理だろう。何しろ、やるとなれば防壁を国民どもも含めた城の一番外側の外壁まで広げなくてはならない。中央部分だけ守ろうとするのならば容易いが、それでは民が直接脅威に晒されてしまうし、第一そんなことはアルフェイリアもビビも承諾はしないだろう。風聞を大きく失う、という理由を抜きにしたとしても、非人道的だと捉えるだろう。平面の戦いと空間の戦いの差異は激しい。敵が飛ぶ、ということだけで途端に守りが困難になってしまうことからも、それは一目瞭然だ。


「そっかあ。後でちょっくら会いに行こうかな」

「うんうん、そうしておくれ」

 ビビの気まぐれな話題が収束する頃を見計らって、俺は立ち上がった。次の攻撃を喰らわないようにするための自己防衛策だ。

 適当に放浪する。適当とはいうものの、散々眺め回した地図のお陰で、自分がどこに向かっているのか意識をしてしまう。この気楽な軽いお祭り状態の中、俺はなるべく静かな場所へ移動しようとした。同士のいる場所。この城に使える魔法使い達の仕事部屋。つまりは、俺の昔の弟子どもの様子の一つでも見に行ってやろう、というわけだ。


「セイ、何かあったらすぐに知らせろ」

「分かった、どこに行くの?」

「お前の先輩共の様子見だ」

 セイは、いかにも自分も連れて行ってほしいという様子を見せたが、すぐに諦めた。拒絶されることを分かっているのだろう。

 数歩離れていた位置で取り巻き、ビビやアルフェイリアとの会話が終わるのを見計らっていた者どもの追跡を逃れるために、俺は幻影魔法で多少や面の目を晦ましてやった。低レベルな幻影魔法で、俺が未だにビビやアルフェイリアと共にいると錯覚させるだけの、ある程度の程度に達した魔法使いならば容易く見破れるものではあるが、俺に御託を並べんとする貴族の者どもが魔法に長けているとは到底思えんので、これで充分だろう。そもそも、魔法を多少なりとも齧っていたら、俺に贔屓をしろなどという馬鹿なことは言い出さないはずだ。この世の中で、無能な魔法使い程役に立たん人間もいないだろう。畑を耕し、その身をもって作物を育てている農民の方がよっぽど生産的というものだ。
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  1. 2008年10月31日 00:55 |
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Successor Of Dragon  その31

ル・ルヴァオールはふりーだむ。
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 各々が差し出されたものを食べ始めようとした頃に、ひょっこりと主役が現れた。


「今日は皆で集まってくれて、どうもありがとう。うんうん、ありがとう」

 貴賓席の脇から現れたビビは、黒いスーツに赤いネクタイという、性別を間違えたのかと聞かれかねん格好をしていた。大きなワインらしき瓶を持ちながら、俺やアルフェイリアらが座っているこのテーブルへとやってきた。


「これはね、フォルテウスの恵みがもたらした……うーんとね」

「ラライ川の清らかな水と、我が国の豊富な果物で作られた絶品でございます、姫様」

「うん、そう、それね」

 側近のフォローに、アルフェイリアがほっと胸をなで下ろした。
 まずアルフェイリア、そしてその隣、とそのテーブルの外を一周しながら配られたグラスに酒をついでいく。

 これも習慣の一つらしい。招かれた客へのもてなし。俺はこの作業を見るたびに、つくづく自ら何か催すことは止めておこうという自分の意志を再確認している。

 貴賓席に招かれた全ての客に酒を注ぎ終わると、ビビは側近の者から既に酒の入っている小さなグラスを渡された。さらに側近の者は、ビビと一瞬顔を合わせ(とはいっても相手の顔はフードに覆われていて見えない)、小さく頷き、右手を軽く上げた。

 待ってましたと言わんばかりに、広間全体を覆うようにして鈍い金属を叩いた音か響き渡る。それを合図にして、下方に群れている者達の私語が収まった。広間の端に待機していた……俺もその内の幾人かは見覚えのある……者達が、既に作業化したと言っても過言ではないいつもの魔法を行った。

 貴賓席から一つの橋がかけられた。透き通った青色の橋だ。それは広間のちょうどど真ん中からやや上空にあるそれは、主役を招き入れるためのステージへ通じている。いかにも魔法で現れたように見せかけてはいるが、実際には幻影魔法をかけ、なかったことにされているだけで常備されている舞台であり、下方に集まる大衆の中にもその事実を知る者はいくらかは存在しているであろうが、そんなことは問題ではない。橋と同様に透明度の高い青色で、人一人がやっと寝そべることのできる程度のスペースしかない円形の間。元組合員であった見覚えのある奴等が、普段そこにかけられている幻影魔法を解くことで明らかになるそれの、いかにもな幻想的雰囲気が、ここにいる奴等も含めて……全員の息を呑ませることに成功する。

 さらに俺の元弟子どもも含んだ魔法使い達は、広場を薄い靄で囲い、そのおっとりとした雰囲気を駆り立てるのに貢献していた。

 セイが興奮して、テーブルの上へよじ登った。いつもならファルマはセイのそういった動作(お行儀が悪いという趣旨の主張で)を咎めるところであるが、今は奴もこの雰囲気に呑まれたと見える。何も口出しせず、ぽーっとした顔で一連の動作を見ていた……というよりは、かけられた幻影魔法を見ていた、といった方が正しいか。ファルマは一応、この仕掛けを見たのはこれが初めてではない筈だ。それに幻影魔法は、レジーの得意分野であると同時にこのファルマの得意分野でもある。奴にとってこの目の前の魔法はすなわち、好敵手の技術の確認でもあるわけだ。

 無防備そうに見えて、実は高度な守護魔法がかけられ、さらにはこの広間にいるアルフェイリアの部下達の厳しい眼が行き届いたそのステージの上で、ビビは一回咳払いをした。緊張の一瞬だ、と、本人ではなく俺の隣のウドの大木の握り拳に無意識に力が込められた。


「実は皆にお知らせがあります。本日を持ってビビ・グロスヴァンドは……」

 無意識的に何か言おうとしたが、気づいてその声を無理やり押し殺そうとした時に出た一瞬の呻きのような声が、広間のあちこちから漏れた。


「成人しちゃいました! よろしくね」

 この時を待っていたと、観衆達は、俺の両隣の奴等どもも含め、歓喜の声を上げた。空には色とりどりの花火が舞う。これは俺の組合員どもが用意していたものだろう。魔法によって器用にもビビの文字と似顔絵が浮かんでいた。そうして、見張りの兵士どもですら喜びに顔を綻ばせている中、俺は場を睨んだ。こういった瞬間が、一番の狙いどころなのだ。


「ふう、じゃあ、しょうがないからこの国について語ろうかな」

 しょうがない、のだろうか。確かにこの場はそういった内容の話をすることを強要されてはいるが。ビビは多少もったいぶりながらも話を続けた。


「ル・ルヴァオールが取っている君主指名制は、おいらの兄アルフェイリアという結果を残したけれど、これが皆にとっていいのか悪いのかは、まだおいらもよく分からない。世襲制と指名制は、もしかしたら全然違うようで、結構似てるもんだなあと、最近思った。おいら達のお義父さんアルフレッド前国王は、おいらの兄を養子として取ったことだし、結果的には世襲制と同じような気がする。世の中の歴史家たちは、ルヴァオールを類に見ない君主指名制を取っている国家だといって持てはやすけれど、レヴァノイアの国と、それとここ何年かの戦いで敗れ去っていった国々たちを見ても、君主はやっぱり何人かいる子供たちの、一番優秀だなあと思った子に継がせてるから、ちょっぴり不安なんだ」

 ビビは本当に困った、というような表情をして、それからアルフェイリアのフォローのためだろうか、付け加えた。


「それは別として、偶然だけど、父上がアルフェを、同じ『アル』がつく者だからといって面白半分で養子の一人に加えたのは、今の結果から見れば、成功だと思っていいんじゃないかなあ」

 全国王アルフレッドは、中々つかみどころの無い奴であった。無論、今のアルフェイリア・ビビ兄妹程ではないが。まるで……今いるウィスパのように、生真面目で、それでいてどこか抜けている奴であった。奴が時折見せるすっとぼけた拍子の抜ける態度は、こちらを苛立たせることもありまた、敵国に油断をさせるというここぞといったような重要な局面で役立っていったものだった。今のように、こんな隣で呆けているようでまるで威厳がないが……軍隊を仕切る際に見せる、厳格ないかにもといった国王面を見せることのあるアルフェイリアとは根本的に違う。アルフェイリアは、父親とはまた違った意味で生真面目な奴だ。


「たぶんここにいる人も含めて、この国全員の人が実際に見てきた国王は本物で、良いところも悪いところも全部ひっくるめて、それが皆にとってのアルフェイリアそのものだからくれぐれも、眼に見えないものに惑わされないでね。あ、これは魔法のことじゃないからね。なーんていっても、それが一番難しいことなんだよね。学者の人達が言うには、思考の癖っていうらしいよ。それを身に着けるようになるといいってことかな。何をするにも頭の中でちらちらっと考えようってことらしいよ。でも時間は多分有限だから、無駄な思考ってのはどうしても出てくるから、厳選しなきゃいけなくって、それもまた難しいところだよね。そんなことをおいらはいろいろ考えながら今日になっちゃった訳なんだけど、うーむしまった、これも無駄な思考っぽいかもしれなくて困った。まあなんでもいっか。そうそう、皆が気になってるっぽいことを答えるよ。いきなり話すともったいないから話さなかったよ」

 今ふと思いついたらしきことを単に羅列するだけの、とりとめもない話ではあるが、その一つ一つの内容は展開を広げやすいものであり、何かしら各々の頭の中にひっかかるものを、余韻を残す。


「両雄並び立たずって、いい言葉だよね。多分知ってると思うけど、英雄は一つの場所に二人は存在できないってことさ。これは勿論、今火花をばちばちっとちらしてるル・ルヴァオールとレヴァノイアのことでもあるんだけれど、おいらとアルフェイリアのことにもそれは言えるんだよね。それはつまり、おいらさんがあまりにも素晴らしくて凄いってことさ。じゃなくても、おいらの能力に関係なく、指名君主制という制度に関係なく、おいらが目立ったら間違いなく今の王様の邪魔になってしまうってことさ。おいら的にはアルフェイリアはいい王様だと勝手に思っちゃってるから、邪魔したくないのさ。今までそういった親戚の、世襲制の国のところだけれどそういった身内同士の権力分立争いで身を滅ぼした国、多分皆も目の当たりにしてきたと思うんだけど、ある意味それをしてくれたからこの国が生き残ったってのも多少あったりしてね。んで、そういう国をみて、おいらはまた考えたの。実際に滅びたのは、本人達の対立っていうより、周りがそれを抱き込もうとしてしまったからでしょ。うちの国の人たちを信頼しているとかどうとかじゃなくて、こういうことは絶対に起きちゃうんだよね、何があっても。だからおいらに『ねえキミキミ、王権奪ってみない?』なんて誘いをかけても、全然駄目だかんね。無理の無理だもんね。ふふん。まあそんな形で、素晴らしきおいらたちの兄妹愛は幕を閉じる訳でありました。ぱちぱち。……ということでおいらは、今やることを探してます。って訳でもなく、ちょっと考えてみました。でもまだ実行には移しません。アルフェイリアが成功したら、やってみようと思います。楽しみにまっててね、ついでにおいらの兄さんを応援してね」

 最善の手を尽くしてよりよい国造りを、だの、絶対的な統治のもとに臣民の幸せを約束する、だの、文献にも残っているありとあらゆる国王、またはそれに近しい奴等どもの演説は何度か目の当たりにしたし、本にして読んできた。だがこれは違う。いい意味なのか悪い意味であるのかは全く分からないが、違う。一言で言ってしまえば変だ。可笑しいのだ。

 言葉を聴けば、いかにも幼稚な、精錬されていない言葉使い、と取られても文句は言えない演説であるが……。その言葉のみで一刀両断するには、あまりにもむずがゆいというか、どこかぎこちない感じがする。

 ビビは他にも、ちらほらと自分とアルフェイリアのエピソードを語るなどをして(成人式恒例といってもいい、自分語りを強要させられている。内容は、本当にどうでもいいものばかりだった。自分とアルフェイリアの盤上競技の話だとか、武器造りだとかの)、最後にすっかり忘れ去られていたグラスを天高く掲げて力いっぱい叫んだ。


「この国と、そこに住む皆に、乾杯!」

「乾杯!」

 おそろしい程までの、だが女弟子どもの甲高い声とは違って悪い気はしない、観衆の総意がつまった祝いの言葉がこの場全体を支配した。天井は覆われておらず、まるで開放的な場だというのにまるで密閉された空間にいるかのような、そんな錯覚すら感じさせられる。人数の力とは、やはりどうにもこうにもできないものがあるようだ。魔法による音響効果など脆く霞んでしまうくらいに。

 さて、では、遠慮なく俺も少しは飲むとするか。アルフェイリアの馬鹿と比べるとどうしても自分は酒が強くないのではないかという懸念にかられてしまうが、本来、そうではないはずなのだ。こんなグラス一杯程度に影響はされない。
 まず試しにと少量を口に含んでその味を確かめる。やはりよい。いつもの酒場で飲む水代わりにがぶ飲みできる安酒の味もなかなか良いものだが、それとはまた違った味だ。毎日飲めば飽きてしまうだろうが、こういう機会だからこそ、こういった酒がより美味しく感じられる。俺はこのワインの名前も産地も価値も知ったこっちゃないが、美味しさだけなら舌で判断できる。


「これ、美味しいものなのかしら……ってあらセイ、あんたの分はどうしたの?」

「さっき飲んじゃった。もうないよ」

「式ってものが分かってないわねー。フライングよ、それ」

「ふらいんぐ!? 俺、不正なんかしてないもんね。早く飲んじゃだめなんだって、どこにも書いてなかったし、誰も言ってなかったもん! ね、シャドウ」

 いつもなら反応のひとつでもしてやれただろうが、俺はそれ以上にワインの味を確かめることに専念していた。


「国王、重々承知していらっしゃるとは思いますが、飲みすぎは禁物ですぞ。くれぐれも」

 一方その隣では、この国の宰相・重鎮であり、少年期のアルフェイリアの帝王学の師匠でもあるヘルゼ・ヴァンズがアルフェイリアの隣で(宰相ともあればその地位は絶大で、王族や対等な同盟主のみが座れるこのテーブルに列席を許されている)お酒が大好きな国王を諌めていた。


「おうよ! ところでよう、なあ聞いたか、ビビの演説!」

「はあ、それは勿論」

「俺はあいつこそが、真の君主ってやつに相応しいとずーっと思ってるんだ。いやあもう、いいなあ」

「うーむ、そう言われましても、私には主君の器を量れる程に優れた目を持っておりませぬ」

「まあまあ、いいから頷いてくれよ、ここは」

「国王、もう酔っていらっしゃるんですか」

 こちらはアルフェイリアの義理の従兄弟(アルフェイリアは養子だから、このテーブルに座っている王族どもは義理の家族ともいえる。そう考えると、実質的にはこの席の奴らどもは王族ではなく、単なる全国王の親戚というだけとも言える)だ。名前は……忘れた。大した活動はしていないのかもしれない。


「いえ、恐らく、いつものことかと」

 ヘルゼは、俺以上にアルフェイリアの酒好きを知っており、酔った時の態度も、そして酔っていようといなかろうと常に展開するビビ語りの程度も熟知しているのだろう。その言葉には、積年の苦労が滲みでていた。

 俺がヘルゼに多少の同情の念を抱いた時、俺にも客が現れた。話し相手としてそいつを捉えるとするならば、俺は落胆の色を隠すことができない。

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  1. 2008年10月31日 00:51 |
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Successor Of Dragon  その30

用意しておいたハロウィン絵が気に食わないのでかわりに小説更新する!
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 俺は一番後方のテーブル、アルフェイリアの隣の席に座らされた。さらに隣にはファルマが不機嫌であると主張せんばかりの顔で座っている。セイがグラスを渡すと、ぶっきらぼうにそれを受け取った。わざわざアルフェイリアの手からグラスを渡すという無意味なこの習慣の起源は、俺にはよく分からない。


「ねえねえシャドウ、シャドウがここに来た人たちを倒したって、少人数でしょ。それって意味あるのかなあ?」

 セイの席は用意されていなかったらしく、慌てて側の者が小さな椅子を持ってきた。

 それによじ登りながら、またもやうんうんと悩んでいたセイが突然切り出した。


「アルフェイリア……いや、ルヴァオールが望んでいるのは、侵入者の首だけか、という質問か?」

 無論そうではない。アルフェイリアが欲しいのは大義名分である。アルフェイリアが統治する国ルヴァオールと、敵対する国レヴァノイアには、ある要素において決定的な差がある。それが大儀名分だ。

 もともと(とはいっても俺にとっては最近の話になる)この大陸は、レヴァノイアの統一王国であった。だが一つの国が永遠に栄えることの難しさを証明するかのように、レヴァノイアもまた時を経て弱体化していき、それを好機と見計らった数多くの小王国の独立、そして群雄割拠の時代を経て、今ではこのような形となった。レヴァノイアからすれば、ル・ルヴァオール国は単なる『裏切り者』であり、最早戦力は対等かそれ以上だといえども、歴史と伝統という価値観が生み出す権利のおかげで、それ以上でもそれ以下でもないという認識をすることができる。一方でルヴァオールが頼りにしているのは、大陸の覇者はより優れた者がその地位に付かねばならない、という半ば独りよがりともとれる価値観のみである。実力主義の世の中とはいえども、大義名分が無ければ他国や自国の民に示しが付かない。そうでなければ、賊の反乱と同一視される。

 ル・ルヴァオールとレヴァノイアは同盟を結んでいる。お互いに争わず、大河グレミランを国境として大陸を二分に分けよう、というレヴァノイアの苦肉の策といってもいい同盟で。今は両者とも力を蓄えるための時期だと判断したようだ。

 レヴァノイアはいつでも裏切り者としてル・ルヴァオールを攻撃する大義名分を持つ。反してルヴァオールは、自ら戦を仕掛ければ同盟違反の汚名を負うばかりとなる。だが、レヴァノイアがその大義名分を駆使してルヴァオールを攻撃したならば話は別で、ルヴァオールにも同盟違反による大義名分、すなわち、レヴァノイアを攻める十分な理由を得ることができる(ちなみに、魔法組合の抗争とはまた別の話で、こちらはこちらで随時争っている)のだ。

 アルフェイリアも、このつかの間の平和とやらが何の安らぎも与えないということを分かっている。どちらかの勝利という形で結果を残さぬ限り、一触即発のこの状態は続くであろう。まだ奴の年は三十路に満たぬとんだ若輩者とはいえども、いずれは老いがくる。ましてやレヴァノイアの国王代理は奴よりも一回りも二回りも若い上、極めて優秀な魔法使いだ(特殊だがな。認めたくはないが)。たかだかレヴァノイアの国王代理とビビの結婚がどれ程のブレーキになるというのか。所詮は政略結婚。何の歯止めにもなるまい。それは歴史が如実に証明してくれている。


「やっぱりいろいろあるの?」

「ああ、いろいろだ。そうだろう、国王様よ?」

 さらに言えば、アルフェイリアはビビのそういった仕組まれた結婚を良しとせず、もしこの宴をレヴァノイアの手のもの(まあやってくるのはレジーの組合員である可能性が高いが)に邪魔されれば、当然そんな婚約はなかったことになる。アルフェイリアからすれば、こちらから仕掛ける大義名分と、ビビの不幸(本人はどうあれ、奴はそう思っているだろう)の阻止と、あわよくば相手の駒減らし(そしてできれば捕獲し敵方の情報も手に入れれば言うことなし)という一石三鳥のチャンスであるのだ。ただし、そのために払う犠牲は未知数であるが(といっても防ぎようがないことなのだから、仕方ないといえば仕方ない)。


「え? ……ああ、うん。そうだなあ」

 日ごろから複数の者の声を同時に受け取りながら生活しているのだろう、また別の者(おそらくは王族の者だろう)と話をしながらにも関わらず、少し間をおいただけで、こちらの話の流れにそった返事をした。


「早いか遅いかの違いだよなあ」

「? よくわかんない。どういうこと?」

 俺は広場を見下ろした。貴賓席は一般客の蠢きをそのままそっくり見下ろせるように高台に建設されている。なぜ権力を手に入れると高いところへ行きたがるのか、その疑問に答えることは俺も他人をとやかく言えた筋合いではないので遠慮しておこう。が、基本的に、天とは人間のあこがれるものらしい。


「なあシャドウ、まさかおめえ、そいつらにサポートさせる気か?」

 王族らしきものとの会話を中断し、アルフェイリアがセイとファルマを眺めながら言った。


「何のことだ。馬鹿かお前は。冗談じゃない、そんな自らの首をしめるようなことを俺がするか」

 馬鹿かお前は、決して大きな声で言ったわけでもないのに、その言葉を発した瞬間、そのテーブルに座っているおそらく全員の視線が俺のほうへと集まった。王族やら貴族やらに加え、勿論ファルマやセイもだ。


「おー、そうか、ならいいんだ」

「お前って何様よ!」

 まゆをぴくりと動かしている貴族らの代わりに、ファルマが嗜めた。


「お前こそ、折角の『生アルフェイリア』だというのに興奮もせんでどうした。ウィスパに毒されたか?」

「ちょ、ちょっとあんたばか、やめてよ!」

 今度は俺に対するばか、というファルマの怒号に反応して、今度は視線がファルマに集中した。

 俺は笑いをこらえるのに必死だった。その態度はファルマの怒りのボルテージをますます上げることとなったが、アルフェイリアが空気を読んでか読まなくてか、丁度よいタイミングで割り込んだ。


「はっはっは、いいじゃねえか呼び方なんてよ」

「おいアルフェ、お前のファンだ。相手してやれ」

「ん? ファン?」

 ファルマにとって、これはチャンスに他ならないというのに、奴の様子ときたら俺の予想と正反対のものであった。顔を赤くし、何やらよくわからないことをごちゃごちゃと呟きながら頑なに否定する。叫びたいのだろうが、こんな場所で大声を出せば大衆の視線を釘付けにすることは間違いないので、さすがに奴といえどそのような愚かな行為は控えていた。


「いいの! とにかくいいからっ」

「?」

 よくわからんやつだ。


「じゃあ俺がアルフェイリアさんと握手する」

「お? いいぞ、よろしくなぁ」

 俺はセイを片手で掴み、アルフェイリアの方へ投げる。限りなく大きさに差のある二つの手で握手を交わした。いかにも羨ましい、という眼でファルマはずっとその様子を凝視し続けている。羨ましいのなら、自分も行けばよいものを。どうせ無料なんだから戸惑う意味がわからない。ましてや、アルフェイリアがこうして貴賓席という客の立場としての席に座っていることなど滅多にないのだ。普段の式典ではアルフェイリアは、当たり前だが国王としての義務通りに、主役としての役割を果たさねばならない。ファルマからすれば、これは滅多にないチャンスではないのか。


「ごつごつしてる」

「ははは、綺麗な手じゃあねえよなあ」

 周囲も珍獣でも見るような眼でセイを見つめている。

 俺の横から、低い声で一言失礼します、とだけ述べながら前菜らしきものがそれぞれの下へ配られたが、肝心の酒が入っていないので、俺はまだ食う気にはなれなかった。一目で普段滅多に口に出来ない品物なのだということは分かったが。

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  1. 2008年10月31日 00:48 |
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