戯言がいっぱい。

めもちょー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --年--月--日 --:-- |
  2. スポンサー広告

Successor Of Dragon  その62

6章終わり。
サイトで一気に見るならこちら






「楔は、一つは貴様にかける封にする。もう一つは、アルフェイリア国王に施す治癒魔法だ。忘れるな。解呪が終わったからといって貴様は解放された訳ではない。その後も戯言を吐けば、アルフェイリアの命など脆く散る」

「言われるまでもないことだ。そうでなければ、お前は国王代理の座を今すぐ誰かに譲るべきだ」

 確認を兼ねた挑発のつもりだったのだろう。回りくどい話し方をしていてもその話の内容はどこか幼さを伺わせる。やはり、ただの麒麟児。俺達不老不死の仲間ではないということか。


「……減らず口を」

「それで、誰が魔法陣を用意するんだ? 何なら俺が書いてやってもかまわんが」

「貴様の手など借りぬ……と言いたいところではあるが、貴様が魔法陣を描く最後の機会となろう。貴様がこの世で行う魔法使いとしての最後の仕事、存分に堪能するが良い」

 それは半分本心なのだろう。奴は万能の国王という自分にとっての理想像にしがみついているように感じる。そこには確かにせめてもの寛大な慈悲を与えてやろうとの半ば自己満足的な気持ちが含まれている。


「では、精々張り切らせていただくか。だが……」

「今の貴様の魔力では張るのも辛かろう。差し出がましい真似は止すがよい」

 そう言って奴は魔法陣の基盤となる下地を真っ白い床にひいた。張る速さは俺と同等。しかし、その精巧さ、人の手ではおよそ生み出すことができないと思われる程に違和感のある正確さは俺には真似できない。

 奴は自分の仕事を終えると、どうだと言わんばかりに勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見た。俺に対する見え透いた挑戦。

 俺はそれを真に受けたふりをして少し乱暴に地面に座り込んだ。想像していた通りのひんやりとした石の冷たさを感じながら、俺は丁寧にも自分の指で魔法陣を一筆一筆丁寧に書き加えていった。

 それはこの一ヶ月もの間ずっと奮闘していた魔法組合の防壁に施したような退屈で単調な作業とはまるで正反対の行為だった。同時に俺はまるで魂を刻むかのようなこの作業にひどく懐かしさを覚えた。いつぶりであろうか。こうして自分の身を削るようにして本気で魔法陣を描くのは。思えば随分とご無沙汰であったものだ。このような気合の篭った魔法陣こそ、魔法使いとしての腕を上達させるのにもっとも適した理想の形。それがこうして窮地の状態に追い込まれている今だからこそ味わうことができるという皮肉が可笑しくて耐え切れず、俺は低い笑い声を立てた。奴は訝しげな表情をして鎮座する俺を見下ろしている。俺がこの状況下において嘲るように笑うその意味を必死に考えているようだが、無駄なこと。お前ではどう頑張ろうと分かり得ぬことだ。


「何を笑うことがある」

 何をとち狂ったのか、今の奴の言葉にはそのような意味が組み込まれている気がした。


「何を、だと? ふふふ、ふははは!! 可笑しくてたまらんから笑っている。ただそれだけだが?」

「それが解せぬというのだ。それは貴様のこれからの運命に絶望したからなのか、それとも別の理由があるのか! 答えろ!」

「何を偉そうに命令していやがる。実質的な契約は未だ不成立だってことぐらい分かっているんだろう? 何故俺がお前の馬鹿げた質問に答えてやらなきゃならん。思い上がるなよ若造が。もう少しまともな質問をするというのなら考えてやってもよいがな」

 途端に奴の青白い顔色は正反対の色に染まりあがった。誰が見てもよく分かるほどに怒りを表した奴は、だがしかし少しの間黙りこんだ。俺はその間にも魔法陣に描き続けた。真っ白い床にひたすら指で文字を描いていく。その光景を魔法に明るくないものが傍目に見たらさぞかし滑稽に映ることであろう。

 そして奴自信も気づかぬ内に、いや、もしかしたらもう気づいているかもしれないが……俺と奴の立場は逆転していた。この部屋へ訪れ、奴と対面したばかりの頃は俺が契約を一方的に望むという圧倒的に弱い立場であったが、今やその契約を成立させたいという思いは奴のほうが強くなっている。奴のほうがこの契約に利を強く見出しているのだ。そしてそれは自分の国のためというよりは、奴……セイ自身の純粋な興味のためである方が大きいようだ。少なくとも俺にはそう見える。俺が持つ千年の歴史、奴にとってそれがどれ程魅力的に映っているのか俺は測ることはできないが、その態度で一目瞭然だ。だがその一方で、奴の表情に別の意味での陰りが見えた。


「聞こえぬのか、シャドウ・ディスケンスよ」

 俺はただ黙々と自分の成すべきことをこなしていく。奴は俺の返答を待たずして続けた。それは半ば独り言のようだった。


「この嘆きが聞こえぬのか!! 貴様の才が哀れな持ち主に訴える、この悲痛な叫びが聞こえぬのか!!」

「俺の噂はそれ程肥大していたか? 哀れだな。所詮お前も俺の幻影に踊らされていただけにすぎん。才があるなどという錯覚をするからこうなる」

「黙れ! 黙れ黙れ! 貴様には俺の怒りなど分からぬ! ……分からぬのだ。貴様の魔法を殺す俺の心境を察することなど……」

 魔法陣に使われている言語は、元々俺が日常的に使っていた言語。使いこなせないはずがない。簡潔かつ明瞭に描けば描くほど魔法陣はより小さく収まる。小さく収まればおさまるほど密度は高くなり、優良な魔法陣となりえる。だから俺の描く魔法陣は、いかにレヴァノイアの国王代理といえども到達できない程の質を誇っているはずだ。だからこその奴の発言だろう。奴は本来ならば俺から魔法を奪いたくはないのだろう。俺を拘束する、魔法組合長を拘束することはすなわち魔法を封じることだ。サドゥアの魔法陣を互いに遵守する限り、俺は二度と魔法使いとしての活動を行えない。それが奴を苦しめている。どうやら、奴は心の底から魔法という学問に没頭しているらしい。魔法こそ我が人生を懸けるべきものと注いでいる……そう、俺と同じく。そして、いずれは誰よりも、クロウよりも優秀な魔法使いになるだろう。このまま奴が生きていくことができるのなら。

 不毛な言い争いは、俺にサドゥアの魔法陣を描かせるのに十分な時を与えた。俺は思惑とは裏腹に充実した気持ちを抱えたまま立ち上がり、先ほど奴が向けてきたように挑戦的な笑みを浮かべた。


「さて、分かるとは思うが完成したぞ。いくらでも確認するといい」

「そんなものは必要ない」

 それはそうだろう。何しろ奴は俺の工程を終始見続けていたのだから。条件の確認などは今更行うべくもない。奴は誰が指図せずとも魔法陣の真ん中に立ち……いや、浮かび、これから俺の誇りを握る綱である魔法を発動させた。

 実際の魔法陣の発動は、それまでの無駄に賑やかであった魔法陣造りと比べ、えらく淡々としたものだった。

 たとえどんなに精巧な地図が描かれていようと、それを使いこなすだけの技量がなければ無意味となり、たちまち路頭に迷ってしまう。魔法陣もそれと同じ事で、どんなに正確で密度の濃い良質の地図……魔法陣を提供してやったとしても、実際の魔法使いの実力がそれに追いついていなければ、単なる汚い落書きと化してしまう。

 つい癖で、俺はサドゥアの魔法陣の発動を瞬き一つもせずに見守っていた。そして文句の付け所がひとつもないその完璧な動作に違和感を覚えた。今まで、俺が見る俺以外の者の魔法陣の発動といったら半人前の弟子どものそればかりであった。頼りない動作一つ一つが、俺に魔法陣の無駄遣いによる憤りを感じさせては、仕方のないことであるのにいらぬストレスを溜めていたものだ。

 それにしても精錬された動きだ。美しさすら感じる。15の若き君主だとは思わせぬ程だ。

 奴は何事もないかのようにその動作を追え、俺に小さな黄金作りの髪耳飾りを渡してきた。何か文様の刻まれた円錐型の小さなピアスで、今奴がしているそれよりも一回り小さいもののように見えた。


「こいつが楔か?」

「その通りだ、俺が貴様にかける封は貴様がそれを所持している限り俺が約束を破った瞬間に解呪される。貴様が俺を謀れば、俺はこれを通してそれを知ることとなる」

 言いながら奴は対となるもう一つの耳飾りを掲げて見せた。サドゥアの魔法陣の実質的な効果は、全てこの楔となる小物(対象は魔法発動者が好きに決めてよいが、必ずある程度形の似ているもの二つでなければならない)に集約されているといっても過言ではない。契約当時者にとっては命と等しく大事なものといえる。

 奴はしばらくの間その耳飾りを見つめた後、俺に座るよう促した。いよいよか。いよいよ奴の質問攻めにあう時なのか。俺はある程度の覚悟をし、その椅子の高価さをまるで考慮せずに乱暴に腰掛けた。


「茶は好きか? レヴァノイアの茶葉は良質でな。ル・ルヴァオールの如き蛮国とは比べ物にならん程豊富な茶の種類に恵まれているのだ」

「いらん。回りくどいことはよせ。さっさと本番に入ったらどうだ、それがお前の望みだろう。一つ言っておくが、俺を束縛するものは今ないぞ。この場合はサドゥアの魔法陣の効果範囲外だ。嘘偽りなき問答の保証ができんな」

「不老不死とは喉も渇かぬものなのか? 俺がこれより行う尋問が生易しいものだと見縊られているようだが、感心せぬぞ。」

 早く本題に入りたいという心を隠すための、余裕を見せ付ける行為。こういうところがまだこいつが年端もいかぬ子供だということの証なのだろう。全くする必要のないところで見栄をはってしまう。


「それでは聞こうか。魔法王国ヴァンガードの建国から、滅亡に至るまでの歴史を」

 いきなり長期戦を挑んできやがった。

 そういえば今の時刻は、一体いつなのだろうか。俺が魔法組合を飛び出してクロウにここに飛ばされた時にはもう空は完璧に黒に染まりきっていたはずだ。

 今は深夜。ほとんどの者が活動をすることのない時間帯のはずだ。

 目の前のこいつが激務に追われていないはずがない。睡眠は足りるのか?
 それとも、こいつには寝るという行為そのものが必要ないのか?

 そんなことを考えながら俺は答えた。


「いいだろう。そんなに聞きたいと言うのなら教えてやる。……事実をな」
スポンサーサイト
  1. 2010年05月29日 04:19 |
  2. SOD(小説)
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。